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Wed, 11 December 2019

第152回 税と社会保障の一体改革 ― その2

今回の論点

前回は、日本の税と社会保障に関する3つの論点を紹介した。すなわち第一には、働けなくなった人の生計費を国家がどこまで面倒を見るのか(給付の程度)、第二には、そうした面倒を年金、医療、介護にどう分配するのか(給付の方法)、第三には、消費税をどれくらい上げるのか(財源、財政問題)。前回は第一の論点を取り上げた。そして日本に居住しているという条件のみで税金を使って老後を扶助するのか、労働による貢献すなわち給料や所得に準拠した保険料の支払いに応じて扶助するのか。国家が老後の面倒を見る根拠の議論、またその比重付けと最低生活保障との関係及び世代間での収支の合わせ方が重要だとも書いた。今回は第二、第三の問題について書く。

日本政府は、税と社会保障の一体改革の中で、年金の1階部分である基礎年金に税をどの程度投入するか、そのために消費税率をどの程度上げるべきかに議論を矮小化しているように思う。日本では高齢化の進展に伴い、この1階部分を段々と保険料では賄いきれなくなった。税金を1階の半分まで投入する方針が決められているが、それでも足りず、企業年金などからの補填額が拡大しているため、政府は消費税を上げようというのだ。しかし、老後の保障に関しては年金だけではなく、医療や介護も重要な分野である。医療保険や介護保険と年金給付との関係を総合的に考えなければ、結局、何が重要かという議論もなく、足りないから給付を削るとか、財源を増やすといった歳出歳入の均衡だけで物事を決めることになる。これでは国民の福祉のあり方という根っこの議論が不在である。財政当局以外の国民は到底、納得できないであろう。

年金、医療、介護の分配

日本政府の資料によると、年金 : 医療 : 介護の給付総額の比率は、2006年の5 : 3 : 2から2025年には4 : 4 : 2になる。2004年に現役減少に伴う収入の減少分に合わせて年金給付額も減額する仕組みを導入したことから、年金給付額が高齢化社会になるに従って抑制され、医療費は拡大する。介護は介護保険料が一定である限り給付額も一定となっているので増額はされない。英国では考えにくい、風邪でも病院に行く日本の習慣、高齢者の社交場と化した病院、野放図となっている薬の処方による医療費増大をこのままにしておいて、年金給付への税金投入拡大と増税は許されるであろうか。医療費拡大分まで消費税で持つとなると、税率は10%程度では到底覚束(おぼつか)ない。医療の効率化や規制緩和による参入、M & A促進は必要ないのか。併せて病気ではない高齢者の介護ニーズの増大に対して供給が追いついていない現状も、働けなくなった高齢者を国家がどこまで面倒を見るのかという考え方の整理なくしてはケリがつけられない問題であろう。

この点、英国では保守党政権が、病院やプラクティショナーに裁量を持たせる規制緩和案をまとめている。成功するかどうかは議論があるが、規制を緩和し、市場の力でサービス向上とコスト抑制を図ろうとする一つの形であり、こうした議論を日本でもしていくことが必要であろう。

消費税でどこまで面倒を見るのか

次に第三の問題は、消費税率の引き上げで、どこまで面倒を見られるのか。この肝心の議論も菅総理の施政方針演説では言及されていなかった。基礎年金への税金の投入のみなら企業負担分を残して2兆円程度、企業負担分を残さない場合には消費税は10%、介護・医療費増加分も賄えばさらなる増税が必要になる。さらにこれ以上赤字を増やさないとか、赤字を漸次縮小させるという計画を見込めば、その上にまたさらなる増税が必要になってくる。

これまで税率引き上げが困難であった理由を、今一度分析しておく必要がある。一般的に言って、国民は増税を嫌うものだが、支持が得られなかったのは、これまでの政府が埋蔵金や行政改革について十分な説明をしてこなかったせいでもある。事業仕分けもあのように情報を部分開示しかせず、国民に選択肢を見せず、見世物のように判断を下すような手法では、納得ある削減の方法とは言えない。泥をかぶって総理自らが無駄を排除する姿勢が示されていない。だからこそ税率引き上げに対して国民はNOと言っているのである。医薬や介護も含めた公共部門の身を切るような情報公開と選択肢の提示なくして、単純な財政収支の帳尻合わせでは国民は納得しまい。いずれの問題についても、菅総理が言う6月の期限までに納得できる原案を出すことは難しく、政局になるのは時間の問題と思う。

(2011年1月31日脱稿)

 
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