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Sun, 08 December 2019

第156回 安全と効率の間 —自動車メーカーを例に

サプライ・チェーンの再構築

震災発生後、日本経済は一時的に景気回復に向けた動きが止まった。その理由は、第一には震災の規模の大きさに加えて、福島原発での事故が未解決であり、計画停電が続いていることを受けて消費者全体に自粛、節約が広がっていることである。旅行、飲食、ホテルでは予約のキャンセルが相次ぎ、経営が苦しくなる企業も出始めている。第二には、東北地方のほか、茨城県北部での工場被災によって、製造業における原材料や部品の供給が止まったことで、全国の製造業の生産そのものが停止したことである。今回はこの部品供給、すなわちサプライ・チェーンの今後について考える。

影響は様々なところで出ている。まずは自動車メーカー。自動車は部品の数が3万点と非常に多く、トヨタや日産などの自動車メーカーの下に一次、二次、三次と下請けがピラミッド状に系列を成している。そのピラミッドを構成する企業のうちどこか一つでも生産を停止すると、ピラミッドの頂点にいる自動車会社は自動車を作れない。例えば、福島県のエンジンやサスペンションといった基幹部品や茨城県の電子制御関係の部品もさることながら、様々な地域で作られているエンジン・オイルの蓋のパッキンや、塗料に入れるつや出し顔料などだ。小さなパーツなのだが、それがないと車ができない。そして自動車会社が生産を停止すると、部品を作る一次から三次の下請けの資材調達先を含む膨大な数の企業に影響が出る。また日本の自動車部品は海外輸出が多く、北米の自動車生産にもブレーキがかかっている。

在庫管理の効率

仮にある部品が生産を停止したとしても、その部品の在庫があればある程度の期間は操業できるのだが、日本の自動車メーカーは看板方式といって、在庫をできるだけ持たずに、納入業者に必要なときに必要なだけ持ってきてもらう方法を取る場合が多い。その方法を極限まで突き詰めたのがトヨタである。非常に効率的な方法であり、日本の自動車が品質が高い割にコストが低いのもこのためである。しかしながらこうした効率性は、一旦どこかで不具合が生じると部品在庫という「遊び」がない分、機能が急に停止してしまう。効率性とは別の安全性という基準に照らせば、多少は非効率であっても部品在庫はあった方がいい。

幸い日本の産業界には、裾野の広い自動車の問題を優先的に解決しようという雰囲気があり、自動車会社の生産の正常化は6月には実現できる見込みだという。4月中旬くらいから少しずつ生産が再開され、5月には通常の半分程度まで回復できそうである。

各自動車メーカーは、自らの生産行程を構成するピラミッド(サプライ・チェーンという)のどこに綻びがあるのか、それがいつ復旧するのか、当面復旧しないなら代替品を西日本や中韓のメーカーで作れないか、その設計変更に要する期間は、といった点を懸命に模索している。メーカーの社員が下請け会社まで出掛けて技術指導するケースもあるという。こうした努力により自動車業界、次いでそのほかの機械や化学といった業界が復旧するという順になりそうだ。

安全と効率の間

さて、復旧が仮にできたとして次に考えるべきなのは、こうした事態を今後避けるための再発防止策であり、これが日本の産業のあり方を考える上で非常に重要である。サプライ・チェーンの問題を今後考える場合、効率を重視して部品在庫を持たないのか、安全を重視して部品在庫を持つのか、または他の方法で効率性を維持しつつ、安全性もキープできるのか、が問題になる。

例えば日本の自動車メーカーは、やはり部品在庫を従来通り持たないことで効率性を維持した上で、安全性を高めるため、すべての部品について原材料までさかのぼって実態を把握して、代替案を予め準備するようだ。ただ、こうした措置がコスト増を生むことは確実で、調達先を複数にしたり、在庫を多く持つことと比べてどちらが効率的なのか、現時点では何とも言えない。

グローバリゼーションで原材料調達と販売を世界で行うことが効率的とされてきたが、その鎖が長いと非常に脆いのだ。「遊び」を持たないというのであれば、その鎖が切れたときのリスクを考えると、ローカルな企業の方が強いとも言えるという当たり前のことを、企業は現在、身にしみて感じているのではないか。

(2011年4月3日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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