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Tue, 10 December 2019

第159回 ポリティサイズの弊害

ポリティサイズ=政治化する

世界中の企業経営者のみならず、経済活動を行う一般市民にとって、現在はかつてないほど政治の動向を気にせざるを得ない状況になっている。先進国、特に日本においては、かつての英国がそうであったように、低成長の経済になると、高成長時代には相対的に小さかった、所得や富の分配のための政治の役割が大きくなるからである。しかし、政治が社会福祉的な分配機能を大きく超えて、民事法や商事法に基づく自由経済というルールを踏みにじる形で経済活動に介入すると、経済人は予測可能性を害され、経済活動で大きな悪影響を受ける。日本は今、震災という非常時であり、政治が果たす役割は非常に大きい。しかし、震災復興という目的を超えて、政治が社会問題に対してポリティサイズ=政治化することで直接介入してはいないだろうか。経済人はそれに厭(あ)き、嫌気が差している。今回はそういう意味で、政治の経済への悪い介入の例について書く。

政治化とは、社会の意思決定に何でもかんでも政治が関与する現象と言い換えてもいい。論点を政治問題とし、それをマスコミに露出することにより、政治が人気取りをするという意味でもある。最近の例では、東京電力に対する銀行への債権放棄・株主の保護要請、中部電力に対する浜岡原子力発電所の稼動停止要請、公務員給与の10%削減がある。借りた金は返すという約束、株主が経営の失敗に対して負う有限責任、私企業の意思決定への政治圧力であり、労働の対価に対する政治的介入である。民事法、商事法、労働法の原則を捻じ曲げ、自由競争の経済原理に政治が介入する。また、被災避難所での煮炊きを、食品衛生法のチェックが必要だとしてこれを認めないという事例が一部であったと伝えられている。さらに震災当日に東電社長が名古屋から自衛隊機を使って帰京することを認めず、しかも一度飛び立ち静岡の上空までたどり着いたヘリを名古屋へ引き返させるという一件もあった。大事なことと些事なこととのバランスを取れない杓子定規な対応である。

一方、本質的な問題である復興計画は財源問題が決まらないために、遅々として決まらない。復興計画、財源問題について、野党と国会で議論し、理解を得るために汗をかくことができない。原発停止という着眼点については、問題提起としては間違っていないと思うし、野党としての批判なら合格だろう。しかし、政権与党なら 議論を深めて、国民的なコンセンサスを作るプロセスこそ重要で、それこそが民主主義の深さとなる。

悪い弁護士の例

現在の政権には、弁護士出身者が多いように見受けられる。別に官僚出身や二世議員の能力が高いとは思えないが、弁護士独特の悪い面が出ていないか。「悪い面」とは、その場の言い繕いである。「放射能の人体への影響は、現時点では問題がない」といった言い方を官房長官はよくする。論理的にはその通りだろう。法廷では問題ないのかもしれない。しかし、そう言われると、一般の人は「長い目で見て影響があるのだな」と考えるのだ。

政治、政策においては、経済、社会、生活、外交関係といった色々な分野とのバランスを維持できるかどうかが重要である。原子力発電所における今日の放射能が大丈夫か否かという新聞記者の質問に無難に答えれば足りるという問題ではない。小泉政権以来、社会がポリティサイズし、マスコミがワイドショー化することの弊害の最大の問題は、政治が社会全体のバランス維持機能だという問題が失念され、論点主義となったことである。経済活動から見た政治の読みにくさもこれに起因する。

政治ショーの帰結

そうなると、言葉が軽くなる。そして出て来る政策は、財政再建一本槍とか、日銀は物価だけに固執するとか、国債引き受けは絶対ダメとか、消費税を途方もなく引き上げるとか、相続税は取れるところからできるだけ取れとか、年金未払いは全員救済とか、極端な政策ばかりとなる。社会のバランス感覚が失われ、論点がポリティサイズしてゆく。これが衆愚政治である。

一方で、優れた経済人はこの事態を感じながら、自社の殻に閉じこもろうとしている。敢えていうが、それも政治家と同罪である。経済人は経済取引の原則への政治介入に対して明確に批判し、抗議・ 発言すべきだ。誰かを恃 たの む根性でいては、福島原発の処理は米仏民間企業の商売の場となってしまい、主権すら危うい。そういう政治にしているのは、声を上げ得る経済人を含む我々であるということを猛省すべきときだ。

(2011年5月18日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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