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Sun, 08 December 2019

第160回 ドイツの原子力政策の転換

メルケル首相の判断

ドイツのメルケル首相は、今後10年以内に同国を原子力発電から撤退させると発表した。2年後の総選挙を控え、また最近の地方選挙(バーデン=ビュルテンベルク)における緑の党の躍進を見るにつけ、政治判断をしたと報道されている。これより以前に、全発電量のうち40%近くという原子力発電への高い依存度を持つスイス政府も同様の発表をしている。エネルギーの確保は経済の成り立つ前提条件であり、エネルギー政策は経済政策の基底を成すものである。またユーロ経済では現在ドイツが独り勝ちで、欧州経済の牽引をしている。ドイツでのエネルギー政策の転換は、大きな意味を持っている。

ただ、このエネルギー転換には紆余曲折が予想される。現時点では南ドイツの太陽光発電などの代替エネルギーを使いつつ、CO2削減をも図っていくという見通しだが、ある程度は、全発電量のうち80%近くを原子力発電で担っているフランスからの買電で調達しなければ需要を満たすことは難しいと思われる。またメルケル首相は、風力や波力などまだ確立されていない分野への関心も示している。

原子力の長所は、原油価格やCO2の排出を心配せずに、24時間にわたり安定的なエネルギーの供給が図られることである。太陽光では日照時間の不安定という問題を抱える。風力なら、風を捕まえるためにあらゆる場所への発電装置の設置が必要になる。

グラフ

英国の対応

英国の連立政権の立場は税金投入を避けつつ、民間の原子力発電投資を立地条件の整備などを通じて支援するというもので、原子力の利用をフランスほど国策化していないし、ドイツのように撤退を明確にしているわけでもない。どちらかと言うと保守党は原発賛成派寄りで、自由民主党は反原発色が強い感じである。

これまで見てきたように、ドイツとて一気に原発をなくすこともできまいし、フランスもこれ以上の原発依存は難しいので、それぞれのスローガンが示唆するほど各国の実態に差があるわけではないと思う。結局どの国でも色々な発電策の組み合わせになろうし、また蓄電池など蓄電の仕方や電力使用の総量削減だけでなく、ピークを均す工夫もあり得る。ただ、切り札はやはり省エネと、それを支える技術革新と投資だろう。

エネルギー節約の余地

中国や韓国はもとより、英国も含めた欧州や米国といった各国がまずできることは、エネルギーの節約である。節約というのは、我慢したり、不自由したりすることではない。同じような効果がより少ないエネルギーで得られる技術は、上のグラフを見るまでもなく、日本が持っている。

日本では原子力発電所の新規立地はもはやあり得ない状況で、また今後、各地の原子力発電所が定期修理に入ると事実上再開できない状態が続くと見られる。 今夏だけでなく、冬も節電を余儀なくされるため、一段とエネルギー節約技術を開発するインセンティブがある。まして原油価格、石炭価格が上昇すれば、同技術の経済効果は大きくなる。日本の技術が世界に広がることで、世界は原子力依存度を下げることができるのだ。ドイツも英国も、技術を使った節電というエネルギー 政策を進めることが、原子力発電所への依存度を下げる意味でも国民から支持される方策であろう。

日本の技術者は世界の先頭に立っているし、消費者も自らの生活を考え直すという点では、過剰冷房などといった問題の少ないドイツや英国の生活に見習うべき点は大いにある。グローバリゼーションを良い方向に利用するときに、こうした人類の知恵を生み出す発想こそ求められる。

(2011年5月31日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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