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Sat, 07 December 2019

第167回 想定外の事態と経営者の責務

日本の政府丸抱えによる企業救済

欧米では財政赤字の問題を主因とする、各国の金融市場の混乱が収まらない。このため消去法で世界中の資金が円に流れた結果、円高が進んだ日本では、政府による不採算企業の丸抱えが行われている。欧米でも同様の措置を取ることがあるが、そうすべきかどうかを巡って議論を繰り広げるので、動揺が生じる。日本では動揺を嫌って、あまりに悩みなく、大きな企業のほか、災害時や欧米市場混乱時には中小企業ですら政府は救ってしまう。

不採算企業の良い例が東京電力だ。事実上、政府が丸抱えで救済することになった。その代わりに、東電が請け負うべき損害賠償の範囲も政府の委員会で決まってしまう。救済資金については、電力料金の値上げによる国民負担になる。これではモラル・ハザードが蔓まんえん延するのは当然である。モラル・ハザードと言えば、「想定外」という企業経営者の発言も然りだ。

BPとの違い

6月に行われた、各企業の株主総会に関する報道では、「1000年に一度の災害」だからであるとか、「想定外だった」ということで、赤字の原因として地震を挙げて答弁する社長の姿が多く見られた。その最たる会社は東京電力である。震災に関しては確かに不可抗力の側面もあるが、企業経営にはそういった事態にも備えることが包含されており、またその術もあったと考えられる。何しろ、会社法上で企業経営者には善管注意義務が課されているのだ。

この点、変な褒め方になるかもしれないが、英国の大手エネルギー企業のBP社は2010年の原油流出事故であれほどの損害を出しても倒産していない。企業経営者が厚い自己資本と損害引当金を積んでいたからである。自らの会社でリスクを引き受ける自家保険にかけていたというわけだ。

自家保険までなら、日本でも対策を取っている会社がある。しかし、多くの英国の大企業が取っている、事業リスクを保険でカバーする「キャプティブ」といった手法を利用している日本の会社は多くない。キャプティブとは、事業リスクを自社の関連保険会社が引き受けて、当該保険会社がそのリスクを再保険会社に再保険するという仕組みである。再保険することにより、リスクが現実化した場合、保険料上昇という形でリスクに対する経費を後払いする。引き受ける保険会社が自社関係でない場合にはファイナイト(保険会社のリスクが再保険で限定されるためにそう呼ばれる)という手法になる。こうした仕組みには、事前に積み立てる資本強化=自家保険よりも、企業買収の可能性を下げる、税金支払いが少ないなどといった利点がある。

経営者の責任とは

震災について、経営者が、想定外だから何もできないとか、免責されるという議論は、損害補てんの対策がある以上、通用させるべきでない。

ただ一方で、こうしたリスク・ファイナンスの手法だけでリスク管理が十分であるという議論も当たっていない。地震が起こった場合の行動計画、具体的には「Business Contingency Plan(BCP)」と呼ばれる災害からの復旧計画を立て、準備と訓練を行うことも企業経営者のリスク管理として重要である。果たして日本にそこまで考えている経営者がどれくらいいたか。

経営者は、会社法上、株主に対して善良なる管理者としての注意義務を有している。企業経営のプロには、一般の人以上に注意深くリスクを考え制御する義務を負わせることによって、高い報酬が約束されるのである。高い報酬だけがあって注意義務を果たせず「想定外」というのは、如何にも失格である。そのような態度だからこそ、政府の経営に対する関与についても文句が言えない悪循環になっているのではないか。


2010年4月に米南部ルイジアナ州沖で発生した石油採掘
施設の爆発事故(写真)で、BP社はその対応を巡って
各方面からの批判を受けるともに、多大な損失を出した

欧米市場の混乱の次は日本の番で、その混乱はより深いものになると考えざるを得ない。投資家や消費者=国民に対して企業経営者は注意義務を負っていると学ぶことが、今回の地震においての最大の教訓であるべきだと思う。

(2011年8月9日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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