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Wed, 11 December 2019

第169回 東電経営問題の行方から日欧の財政危機問題を考える

事業仕分けの蹉跌と増税論

日本の民主党による行政の事業仕分けは、一定程度の無駄を削減し、予算を捻り出したものの、当初のマニフェストがうたったほどの効果は出なかった。その後は結局、日本の高齢化に伴う税と社会保障の一体改革に問題が移行し、消費税増、社会保障給付の抑制が政権のテーマになっている。

事業仕分けについては、その大衆討議的な手法が官僚の吊るし上げに見えるといった演出の問題や、蓮舫行政刷新担当による「世界一でなくてもいい」という発言の是非、さらにはこれまでの積み上げを全く無視したダム廃止の決定などの問題があったほか、官僚の抵抗もあって既得権益の本丸に迫り切れずに、やはりマニフェストは絵空事だったというのが日本で見られる論調である。そしてリーマン・ショック、普天間問題、東日本大震災、原発問題などが相次いで起こったため、官僚や国民の関心が目先の問題に集中し、野田政権は給付抑制も忘れ、増税路線を走っている。マニフェスト復帰を主張する小沢派も「約束は約束」といった形式論だけを言っているため、中身の妥当性や財源確保の可能性を示せず、説得力が十分でない。

試金石としての東電経営問題

しかし、増税に踏み切る前にやることがある。東京電力の経営問題の解決だ。事業仕分けが取り組むことのできなかった本質的な行政の問題をえぐり出す可能性があるからだ。東電は民間会社ではあるが、今や政府がかりとなっており、政府同様の独占企業体による経営の問題点を国民の前にさらし、電力料金算定法の透明性、情報公開性、ファミリー企業への天下りや発注価格の妥当性の再検討などを通じて、無駄の削減を公開でどこまで実施できるかが課題となっている。もちろん、東電でこうした問題が解決できるなら、国内9電力でもできる。政府系企業はもとより、地方自治体、日本の大企業も同様の課題を抱えているから、応用問題は山のように出てくるはずだ。

現在、東電による賠償資金は、政府が交付国債で供与しているため、東電がすぐにつぶれることはない。しかし、東電は電力節約による売り上げ減、原油への依存度上昇と原油価格上昇、銀行団による長期資金の供与停止のため、年末から来年初めにかけて資金繰りに詰まる見通しだ。銀行から融資を受けるためには経営体力回復が必要で、まずは電力料金引上げが考えられるが、それには国民、政府、銀行の納得が必要で、こうした各機関にとって東電の窓口となるのが原子力損害賠償支援機構である。国民負担となる交付国債を極力少なくするためにはリストラが必要になるが、そのためには原子力損害賠償支援機構が東電の経営を握ることが考えられる。現経営陣のような生ぬるいリストラでは、数兆円以上の損害賠償に耐えられない。この点、累積している日本の国債残高や、欧州ではギリシャやスペインの行政改革による国債の償還財源確保といった問題と構造が似通っている。

原子力損害賠償支援機構が経営権を握るためには、東電が資金繰りのために発行する新株か、社債を引き受け、株式転換することが考えられる。新株発行比率を調整して、既存株主の権利を事実上ゼロにすることが適当だ。そうすると現経営陣の追放、やる気ある若手の登用、国民への電力料金算定根拠や関連企業への発注内容の情報開示、労組と政治家・行政との癒着暴露が可能になる。

行政改革も国民の問題

東電の場合、株式会社ゆえに、原子力損害賠償支援機構が株主となり経営権を持つことでリストラ、情報公開、コスト削減が可能になろうが、これは日本政府が抱える諸問題の解決にも適用できる方法論ではなかろうか。さらには、欧州の政府や企業のリストラ策にも大きなヒントになるものだ。ただ、ギリシャでのゼネスト、スペインで40%を超える若年失業者の暴動、行政改革に対する責任は、議会、政治、引いては国民が負うべきものである。だから、株式制度という資本主義の制度とはまた異なる民主主義の論理でリストラを進めるほかない。

東電は、コストや関連先との取引の透明性、経営責任の明確化、企業ガバナンスの確立、こうしたことを重視するということが肝心である。公的主体でも私的主体でも考えることは同じである。東電の改革ができなければ、日本の行政改革など夢のまた夢だ。リストラは早ければ早いほど傷も浅く済むし、回復も速い。ユーロ危機、来るべき円の危機も、結局は、民主主義の問題と銘記すべきだ。

(2011年9月28日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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