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Tue, 10 December 2019

第173回 強いリーダーとコンセンサスの複眼

待望される強いリーダー

今、どの先進国においても、強いリーダーシップを期待する声が強い。ベルリンの壁の崩壊後、バブルの生成と崩壊というノイズがあるためはっきりとは見えにくいが、先進国経済は、最初は新興国における安い賃金・労働力を利用できるという恩恵を受けてきた。しかし、2010年以降は、新興国の産業面での追い上げに苦戦している。そしてこれからは、日本企業のアジア進出、英国企業の東欧・アフリカ進出、米国企業の南米進出といった現象に見られるように、新興国の内需に苦戦脱出の光明を見出そうとしている。

こうした世界経済の激変に当たって求められているのは、これらの変化にスピード感を持って対応できるリーダー、つまり既存の成功体験に拘らない独裁型のリーダーである。特に技術進歩の著しいIT分野の企業では、アップル、マイクロソフト、オラクルなどにカリスマ経営者がいる。またそれ以外の産業では、ヴァージン・グループのリチャード・ブランソン氏、ユニクロの柳井正氏などがその代表的な例だろう。政治でもサッチャー首相を嚆矢(こうし)として、小泉純一郎元首相、橋下徹大阪市長も民衆の支持を得た破壊・独裁型のリーダーである。

彼らに共通する美点は、意思決定、実行のスピードの速さだ。ビル・ゲイツ氏には、まさに「思考スピードの経営」という著書がある。こうしたリーダーは、筆者が実際に会った際の印象や本人に会った人に聞いた話、または自伝の記述などを総合すると、人間としては常人ではなく、周りが付いていくのが大変という人が多いようだ。しかし、革新的なアイデアと手法で既存秩序をぶち壊さないと、前に進めないことがよくある。また彼らは夢を追うタイプではなく、現場の知恵を知り、具体的に手順を進める現実家である。そして存在感があり、争点を単一化して分かりやすく会社や民衆の拍手を取るのがうまく、ここに天賦の才があると思われる。

コンセンサス型リーダーの出番

こうしたリーダーは成り上がりやオーナー経営者に多い一方で、周囲の同意を丁寧に得つつ、従来の実績を漸進的に変えていくコンセンサス型にはサラリーマンが多い。リスクを取ると人事上不利になることから、保守的に振る舞う習い性がそうさせるのである。コンセンサス型のリーダーは現在は不人気だが、果たしていつの時代もそうだろうか。ベルリンの壁が崩壊し、IT技術が著しく発展するという時代には向かないかもしれないが、社会が安定している場合には着実な改善を試みる方が社会的な摩擦が小さく、好まれる可能性が高い。従来の経営方針や社会制度を否定すると、それらが持っていた長所も損なわれる。万能薬はないという当然のことはもっと認識されて良い。

例えば効率一辺倒となると、国民の幸福には資さない。東京電力を始めとするインフラ系の企業は、安全や安心を確保するためにむしろコストをもっとかけるべきであったと考えられる。英国でも鉄道の民営化による線路の保守と列車運行の分離民営化は、両者の連携不足を原因とする事故の多発などから見直されている。

時代に合わない従来の方針や制度があるにせよ、それらが全く意味を持たないということは普通はありえない。ただ、漸進主義的な部分改良では社員や住民のやる気が出ないとか、状況に合わないという場合がある。結局は劇的と漸進主義的の両方の進め方があり得るのであり、どちらの方法が合うかは場合による。いずれにせよ重要なことは「選択後の中間フォロー」なのだと思う。

大事なことは説明・結果責任

上からの改革にせよ、下から積み上げる改革にせよ、結果を受け入れるかどうかを評価するのは、企業であればお客様であるし、国や地方公共団体であれば住民である。こうした人々が納得するための説明には、いくら手間と時間をかけても十分ということはないと思う。その過程を省いたのでは、結果の責任を取ることもできないであろう。逆にその過程があれば、責任は堂々と取れる。

英国では公共支出の削減や企業でのリストラが相次いでいる。日本も現在の景気はまずまずでも、少子高齢化の下での税金や社会保障制度などの改革は必至であるほか、内需が縮小する中で国内中小企業が生き残りを図るために、原点回帰、急がば回れで、業務改革を進めていかなければならない。各界のリーダーは、独裁型またはコンセンサス型のいずれの手法を取るにせよ、改革手法そのものについても情報公開と丁寧な説明が求められる。

(2011年12月3日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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