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Wed, 11 December 2019

第176回 欧米憎しとボス政治

ジャスミン革命から1年

北アフリカのチュニジアで「ジャスミン革命」が発生してから、ほぼ1年が経った。そのとき本コラムで、チュニジア、エジプト、リビアなどの独裁政権を倒すのは一瞬のことだけれども、その後の産業育成ができなければ貧富の格差は縮まらず、民衆の暮らしは楽にならないので、不満をため込んだ民衆の暴動が多発し、治安を求めて軍事政権になるのが落ちであるといった内容を書いた。その後1年経ち、情勢はその通りになっている。以前の独裁政治よりも民主主義的になったかもしれないが、一方でイスラム圏は部族の勢いが復活したかのような様相だ。部族政治であれば、結局のところ、大ボス政治から小ボス政治になったというだけの話になってしまう。南スーダン然り、リビア然り。エジプトでもそうだ。

こうした発展途上国で手っ取り早く産業育成を進めるための手段は、外資の導入だ。また中間層に読み書きのできる人材を備え、インフラを整えることが必要である。インフラには、水道、電気、道路などだけではなく、民法などの法制、取引や決済のルールなどに加えて、公務員が賄賂(わいろ)を要求しないなど先進国では一応確立している道徳や倫理も含まれる。

明治維新、戦後復興において、日本はこうしたあらゆるインフラを導入した。ところが、賄賂、利権がはびこるボス政治は、欧米の倫理とは最初から相容れない。さらにアフリカや中東地域における部族紛争の根っこには、欧米、特に英国とフランスによる植民地政策の後始末のいい加減さがあり、それらの部族には欧米憎しの感情がある。加えてイスラム教徒は、宗教面からもキリスト教国の欧米に反感を持っている。ここまで負の材料がそろうと、日本のような外国投資に慣れていない国はもちろん、特定の利権を持たない欧米諸国からも投資は簡単には来ない。となると、資金は、憎まれながらも旧宗主国としての利権を梃子とする英仏と、こうした状況に憶しない中国企業からのものに限られてしまう。欧米憎しの感情の払拭とボス政治からの脱却が、アフリカや中東での革命を成功に導くのではないか。

イラン・パキスタンと欧米憎し

ボス政治とは異なるが、欧米憎しの感情が一番表に出ているのがイランとパキスタンである。イスラム過激派を実質的に支援しているのはこうした国々の軍隊である。報道によれば、アフガニスタンのタリバンは、パキスタン軍と密接な関係がある。パキスタンは核保有国であるし、イランも核兵器保有疑惑が常にある。こうした国々もその植民地としての歴史、宗教面から反欧米であり、先進国からの産業的な投資は非常に難しい。

そこで両国に目をつけているのがやはり中国である。これらの国では近隣大国のインドへの対抗心もあってか、中国からの投資が増加している。植民地問題や宗教問題でこれらの国と摩擦がなく、経済利害、政治利害が一致する中国企業の進出は必至だ。

いずれにせよ欧米憎しの感情の払拭はできないどころか、最近では悪化しつつある。イランと北朝鮮は「米国憎し」が国をまとめるための方便になっているのかと思えるほどだ。これらの国の産業育成は前途多難と言わざるを得ない。

ボス政治の払拭

一方、ボス政治の払拭も簡単なことではない。宗教の絡む部族間対立の多い中東では、前提に宗教問題があるため解決は一層難しい。宗教がうまく政治と折り合ったトルコですら政府の経済政策への信認は十分でない。他の中東諸国はそれ以前の状態にある。

最近の中南米は、深刻な債務問題を抱えていたボス政治(カシキスモ)から脱却したかのように見える。ただ不安要素もある。経済発展により政治的な不満は抑えられているが、欧米の景気悪化により、ブラジルなど中南米諸国の経済状況が急速に悪化しているからだ。

こうした中、原油価格が高いため物価が下がっていないにも関わらず、ブラジルなど南米の中央銀行は金利を引き下げてしまった。今後、資本流出が懸念される。そうなるとせっかくの経済発展が台無しになる。ブラジル大統領は中央銀行の利下げの前日の演説で露骨な利下げ要求を行った。国内ボス政治からの圧力に屈する中央銀行に対する市場の信頼は十分ではない。ボス政治からの脱却は、インドネシア、フィリピンといったアジア諸国でも経済発展の大きな試金石だ。その意味では、最大のボス政治国といってもいい中国の一党独裁も警戒を怠れまい。

(2012年1月16日脱稿)

「Mr. City のfocus 世界経済」は、編集上の都合で本稿が最終回となります。ご愛読いただき、誠にありがとうございました。(編集部)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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