原油価格高止まり
昨年以来、原油価格が1バレル=100ドル近傍で高止まっている。リーマン・ショック後、穀物や金属などの商品相場が値を下げているのに比べると特異性が目立つ。最大の原因は、日本の電力会社の原油購入量が著しく増加していることである。原子力発電所の再稼働は益々遠のく感じで、原油市場でも日本商社は買いを見透かされて高値での買いを余儀なくされているようだ。同様のことが液化天然ガス(LNG)でも起こっている。
これに加えて、米国経済の好転を示す指標が相次いでおり、米国の景気回復への期待が高まっていること、また中国政府が景気減速を受けての金融緩和を表明しており、世界中がその効果を期待していることなども原油価格の下値の強い抵抗線になり、価格を上げる方向へ相場を動かしている。
新年入り後はさらに別の新しい動きが見られる。米国によるイラン産原油の輸入禁止制裁と、それを受けて、ペルシア湾とオマーン湾の間にあるホルムズ海峡を閉鎖するとのイランからの脅迫の応酬である。
ホルムズ海峡の閉鎖
ホルムズ海峡が閉鎖されると、サウジアラビア、イラク、アラブ首長国連邦、クウェートから日本への原油輸送ルートが遮断されてしまう。もちろんイラン自身からの船積みが通過することもほぼ難しくなるのでそう簡単な話ではないが、もし仮にそうなると、石油危機の再来である。
原子力の使えない日本では、日常生活すら覚束(おぼつか)なくなる。欧州へはパイプライン経由での陸上輸送も考えられるが、フランスの原子力発電の価値や、パイプ・ルートに当たるアゼルバイジャン、トルコなどの近東諸国の地政学上の重要性が高まる。世界経済、世界金融市場のクラッシュは必至だ。また有事のドル買い、円の暴落も確実である。
米国政府によるイランからの原油輸入禁止依頼に対して中国政府は応じない構えを見せており、こうなると原油収入が頼りのイランは対中接近せざるを得ない。いずれにせよ、国際紛争が経済問題になり、やがては国際政治問題につながっていく展開も予想される。また原油輸入禁止措置によって国民生活が立ち行かないとなると、原子力発電の再開を認めるべきとの世論が今後大きくなっていく可能性もある。
高止まりする原油価格(NYWTI原油相場、$/バレル)
先を読んだ準備を
東日本大震災の教訓は、想定外の災害への想定と、その想定に基づく準備と訓練の重要性である。目下、日本の経済にとって、天災を除く大きな災害は、第一にはユーロの暴落によるドルの急騰、円相場の下落、実体経済の世界的な同時縮小だ。そして第二はホルムズ海峡封鎖による石油ショックである。そして第三は、日本の財政赤字問題に端を発する日本国債の暴落、円の暴落、そして金利の急上昇である。第二、第三の点は、日本にとってはとりわけ深刻な危機になりかねない。政府はこうした事態の想定とその想定を前提にした訓練を行っているだろうか。天災、バブル、クラッシュ、エネルギー危機といった災害は、形を変えて繰り返しやってくる。具体的な行動をどうするかあらかじめ決めておいて、事態が発生したら考えることなく、着のまま即行動する。震災は様々な苦労を生んだが、天災が残したこうした教訓は、経済変動や市場クラッシュといったほかの災害に対しても相通じるものがある。
(2012年1月11日脱稿)
< 前 | 次 > |
---|