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Thu, 21 November 2024

第30回 ヘゲモニーを握るのは誰か

これからの国家観

■2週間ほど前の「NYタイムズ」紙に、注目すべき記事が掲載された。米国政府がアルカイダなどによるテロ抑止を図る目的で、主要な銀行の取引記録の提出を求め、これをチェックしていると報じたのだ。米国政府はこれを認めるどころか居直って、テロと戦いをしている最中、これをすっぱ抜くとは何事かと逆に「NYタイムズ」を非難している。
昨年はイラク戦争を前にして、アルカイダ関係容疑者の電話の盗聴を行なっていたことも明らかになった。そして容疑者は、裁判なく刑事手続きを経ずにグアンタナモ・ベイ刑務所に長期間拘留されている。個人情報保護で汲々としている一方、国家のためであれば大企業は簡単に情報を政府に漏らすということである。

似たようなことはフランスでも起こっている。シラク大統領とドピルパン首相が、次期大統領の有力候補でライバルのサルコジ内務相を追い落とすため、クリアストリームという銀行間の資金決済を担う会社のデータにアクセスしたとの報道がある。クリアストリームは、先般NY証券取引所と提携したユーロネクストの子会社である。そして昨年ロンドン証券取引所を買収しようとした会社でもある。

金融、決済を握るもの

ポイントは、これら機密情報を、資金の決済などを行なう銀行やその銀行間決済を担う決済専門会社が持つことにある。インターネット時代、取引やメールのやり取りを行えば証跡(ログ)が残る。それにアクセスできる者は他人の秘密を握ることになる。こうした社会のインフラを握ることこそヘゲモニーの源泉である。国際銀行間の資金決済は、もともと欧州の銀行が中心となって作ったSWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)というメッセージ交換を行なう通信会社がほぼ全部を担っている。そして欧州域内では、国内、域内のほぼすべての資金決済、特にユーロを使った取引はSWIFTにより行なわれている。米国内は独自仕様を持っているので、決済インフラのヘゲモニーを誰が握るかについて、勝負が決していないのはアジアである。さらにSWIFTは、銀行間のみならず、銀行間取引に付随する情報となる個人や団体企業の情報まで自らのネットワークに乗せようとしている。米国は、SWIFT情報がのどから手が出るほど欲しいが、直接アクセスできないので米国の銀行にアクセスしたというわけである。フランスなど大陸諸国であれば、直接調査ができたということではないか。

NY証券取引所が、欧州でロンドン証券取引所の株式決済を除く証券決済を握るユーロネクストと提携すると、米国当局はNY証券取引所への監督権限を通じて、ユーロネクストの証券決済情報や、ひいてはその裏側にあるSWIFT情報へも触手を伸ばしかねない。欧州の銀行が米国当局の手が及ばないようにロビー活動を行なっているのも、うべなるかなである。

個人の対抗手段

国家のこうしたむき出しのヘゲモニー争いをどう見るべきか。一つは欧州と米国の争いが激しさを増す中で、双方アジアへのアプローチ、進出が今後焦点になるということである。中国政府が、同国に進出するGoogleにも検閲を認めさせた一件は評判が極めて悪い。それ自体は、確かに人権問題だと思う。しかし中国政府は、さらにBaiduという会社にGoogleに対抗するため中国語での独自検索システムをサポートするようてこ入れするほか、ドメイン名も漢字仕様を試みると報道されている。翻って日本はどうか。必ずしもよく存じ上げないが、日本政府は、そういう問題意識すら希薄ではないか。

第二には、そうした国家のなりふりかまわぬ生存競争が持つ危険性(まかり間違えば、権力者による検閲の復活)に対してあまりにも弱い企業に比べて、個人はどう対応すべきなのか。これが、ネット世代の課題である。インターネットというボランテイアでできた緩やかな結合、前回述べた小組織、これらは国境に左右されない。いざという時には人権侵害の国家に協力する企業に対しては、不買という武器がある。国家に対しては、投票によるNOか、当該国の国債売却、通貨売却が有力な手段である。金融取引は、信用の取引である。それを悪用するものは、結局は信頼を失い、長期的には得にならないと知ることは重要である。

(2006年7月1日脱稿)

 

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