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Fri, 29 March 2024

第31回 北朝鮮ミサイル発射

ミサイルで考えておくべきこと

ミサイルで考えておくべきこと北朝鮮が7発のミサイルを発射した。その事自体が今後さまざまな余波を引き起こすであろうが、目先の国連決議とか拉致問題とかいった様々な出来事を越えて、一市民がどのように考えておくべきであろうか。一つは戦争など社会的な混乱はあっという間にやってくるということである。今一つは、アジアの安全保障問題の根っこは大東亜戦争、先の大戦にあり、経済専一、防衛や国際政治は米国頼みとしてきた戦後日本、日本人はこの問題に正面から取り組み、自らの構想で解決を図らなければ真の安全保障は手に入らないということである。すなわち、混乱抑止のための準備を早急に行なうこと、同時に中米、朝鮮半島との関係の理想型についてイメージを持つことが重要ではないか。

混乱抑止の準備

英国の新聞は、金正日を戯画化して扱うものや国連決議の行方などを追う記事が多いが、扱いもさほど大きくないし、また戦争の危険にも言及するものは少ない。「アジアの最大の危険国は北朝鮮ではなくパキスタン」との調子である。また米国にとっての脅威は、米国領土に到達するテポドン2のなど核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイルで、今回のミサイルは実験失敗と目される。しかし、日本は既に150基ほど配備されているといわれるノドンなどのミサイルの射程範囲で、しかも通常兵器のみが使用されたとしても相当な被害が想定される。

北朝鮮のミサイル発射に対し声明を読み上げる安倍官房長官[共同]一方で日本自身のミサイル迎撃体制は、2011年度末までに整備が完了する計画である。防衛庁は7月6日、「米国と協力してミサイル防衛(MD)システムの配備計画を前倒しする方針を固め、レーダーなど弾道ミサイルを探知・追尾する監視態勢に比べて手薄な迎撃ミサイルに重点を置いて導入を急ぐ」と述べた。読者は、何と悠長な、と思われないだろうか。泥縄とも言える。北朝鮮の仮想敵は第一には日本で、その日本は実験を目の当たりにしながら迎撃を自分ではできないのである。自国防衛を米国頼みとしてきた結果がこれである。言うまでもないが、米国は自分の安全保障が第一で日本はその次である。日本は、国連や6か国協議など国際的な枠組みを利用しつつも、自力防衛、北朝鮮から自国民を守る体制作りを急ぐ必要がある。現在の事態は、金正日の一存で日本人の命が左右される状態と認識すべきであるが、誰も金氏の心の内を知ることはできない。確かでないことはリスクである。こうした切迫感が英米マスコミにないのは当然だが、日本政府や日本のマスコミにないのは不思議だ。最悪の事態に備えるのがリスク管理である。日本人は、戦争、徴兵という事態に現在では対応できないと思う。そういう視点で補正予算や来年度予算が組まれるのかどうか。今そこにある危機に対してもっと集中的に資源投下して対応すべきだ。

また個人はどうするか。ロンドン居住者も日本からの送金が来ないケースを想定しておくべきではないか。なお、このことは、日本経済の他の最大のリスクである地震対策にも言えるのだが。

アジアの安全保障のイメージ

アジアの安全保障には多くの不安要素が存在する。まずは中国との関係である。中国は政治大国、経済大国でありながら、世界をリードするという成熟した自覚が十分でない。経済面では少子化による経済成長鈍化と腐敗による信頼の欠如が課題だ。大国の自覚が生まれるまでに、まだまだ時間がかかるであろう。そして北朝鮮の次に来る問題は台湾である。ここが米中対決の本丸で、北朝鮮は前哨戦に過ぎない。

台湾問題で米中が対決する前に、戦争をしないという点を軸にすればEU(EC)のような枠組みができるであろうか。アジア共同体構想の研究や、ASEAN+3(日中韓)の枠組みを超えた東アジア共同体の会議などいろいろな動きがある。EUの出発点は、経済、鉄鋼石炭、原子力共同体であった。今のアジアなら通貨、関税、知的財産権、エネルギーではないか。日本はいずれの面でもイニシアチブを取れるのであろう。ただ、それを担う人材の確保が問題である。遠回りのようだが、共同体の根っこは、ヒト、モノ、サービス、カネの相互交流である。ちょっと突飛かもしれないが、対馬海底トンネルによる東京発ソウル、平壌経由北京行きリニア・モーターカー、4都市を回るeasyjetのようなエアバスの開設、みたいな夢を持つことこそ大事かもしれない。その上で米国との関係を民主主義と平和という価値観を軸に対等なものへと移行してはどうか。

こうしたゴール以前に考えておくべき現実的な問題は、北朝鮮解放(崩壊)時における難民への対応とその後の統一朝鮮国家への経済支援である。日本はできるだけ具体的な援助を惜しむべきでない。それこそ、アジアで先の大戦を終わらせ、日本の戦後の対中、対朝鮮半島に対する心理的な負い目を一掃するチャンスと考えるべきである。その援助額は、こうした戦後問題を解決するには安いものではないか。これを乗り越えてこそ、アジア共同体への道が開けるし、逆にそれなくしては難しい。日本政府は、難民と統一国家への対応策について既にプランを持っていると予想するが、それをさらに具体的に詰めるべき時であろう。いずれにせよ、日本は国家として、戦後最大の試練を迎えていると認識すべきだ。ピンチこそ最大のチャンスである。

(2006年7月8日脱稿)

 
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