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Thu, 21 November 2024
内田啓子ライフスタイル・ブランド
Keiko Uchida主宰
内田啓子さん

[ 前編 ] ドレッシング・ガウン、アイマスク、スリッパ。片仮名で綴られる日用品の数々が、着物柄に彩られた途端、非日常的な装いを醸し出す。日本では着物や茶道に親しみ、英国の大学院で学んだ後は、ロンドンの日系企業で勤務したという内田啓子さんは、その経歴までもが和洋折衷。自身のブランドを立ち上げるまでの日々を振り返る。
プロフィール
うちだけいこ - 茶室の建築を行う父親と、着物の着付け師として働く母親の間に生まれる。東京で高級キッチンのデザイナーとして勤務した後、イングランド西部バースへ語学留学。2003年にサリー芸術大学にてデザイン・マネジメントのMAを取得。同年にロンドンのMUJI Europe holdingsに入社し、その後は主に同社の生活雑貨部門を統括する業務に携わる。2012年にロンドン大学バークベック・カレッジの国際ビジネス学のMScを取得し、ライフスタイルブランドKeiko Uchidaを設立。英国各地及びパリの小売店や自身のウェブサイトなどを通じて欧米を中心に10カ国以上に商品を販売している。
www.keikouchida.com

 

日本発のエレガンスを発信したい

「定期的に渡英して、日本の伝統的な芸術や工芸品の展示会を開くという活動には非常に意義があると思います」。幼いころから着物や茶道に深く親しんできた内田さんに、日本の文化を海外に発信する方法について尋ねてみた。「ただこちらで多方面から私を支援して下さっている方々と公平で長期的な関係を結ぶためには、文化交流だけではなく、ビジネスという形態でないと長く続けることができません。またこれまでの人生で得た知識や人脈を生かすためには、小売業の形が最も適切だと思ったのです」。

ロンドンのMUJIで働いていたころ、東京に出張する度に、同行した同僚の女性たちからは「空き時間があれば着物を売っている場所に連れて行って」と頼まれた。だから、英国で暮らす女性たちが、着物に大変な関心を持っていることには以前から気付いていたという。一方で、着物を購入するとなるとそれなりに値が張るし、着る機会もなく実際には眺めるためのもので終わってしまうことも多い。「日本の伝統的な美を欧州の女性たちには毎日身にまとってほしい。そして日本発のエレガンスを共有してほしい」との思いから、気軽に着こなせる着物柄の商品をデザインすることにした。

内田啓子さんデザインの着物柄のトラベル・ポーチとアイマスク
内田さんがデザインした、着物柄のトラベル・ポーチとアイマスク

内田さんが、着物と並ぶ「日本の素晴らしい文化」と考えるのがスリッパだ。「英国の家庭だと、冬にすごく寒いのに、大理石の床を素足で歩かされることがありませんか」と苦笑しながら語り出す。もしかすると、西洋の人々は「スリッパなんてファッション性のないものを人前で履くことはできない」と考えているのではないか。それならばおしゃれなスリッパをデザインしよう。英国でときたま出くわすこうした日常的な一コマを切り取りながら、デザインを通してのアイデアを提示したのが「Keiko Uchida」の商品の数々なのだ。

どうしたら役に立てるか想像する

内田さんの在英生活は、イングランド西部バースへの語学留学で幕を開けた。日本人の夫を既に亡くしていた当時80歳の英国人女性、ミセス・ニシオの家でホームステイをしていたのだという。内田さんが料理の嫌いなミセス・ニシオに代わってこの家で料理係を務めるようになった結果、日本食を食べられると聞きつけた同級生が集い、やがては語学学生たちが各国の料理を作り、毎日のようにミセス・ニシオを囲むようになった。

その後ロンドン郊外の大学院で「日本の感性が世界にどう伝わるか」といったテーマを始めとする研究を行い、在学中にMUJIでのインターン勤務を開始。間もなくして、上司からフルタイム採用の誘いを受ける。日本での実務経験、自主的に同社の商品についてのアンケートを学校の同級生に対して行ったこと、インターンとしての貢献などが評価されたのかもしれない、と振り返る。

内田啓子さんのデザインスリッパ
「日本の素晴らしい文化」と考えるスリッパのデザインも手掛けている

英国での留学やインターン経験を通じて、内田さんは人との出会いの大切さを身に染みて感じるようになった。知らないことだらけの海外では、人との出会いによって毎日が大きく変わる。「日本では問題があっても、誰に何を尋ねればよいかがすぐ分かり、電話一本で物事が解決したりしますよね。でも英国ではそうはいきません。いつ誰にお世話になるか分からない。海外では出会いの重み、人との繋がりの重要性が違います」。

出会った人と関係を構築するために、どうしたら相手の役に立てるか、どうしたらフェアで、お互いにメリットを提供できるかを考える。その哲学は、会社を立ち上げた後に一層確かなものとなった。

 

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