第27回 開け、開運の橋
タワー・ブリッジは、1894年6月30日に開通してから今年で120歳を迎えます。蒸気機関だけでは重たい橋の開閉が難しいので、大砲や旋回橋の製造で有名なアームストロング社の水圧式蓄圧器で動力を補強し(今は油圧と電力)、年に1000回以上も橋を開閉させています。現代も稼働を続ける卓越した技術力と威風堂々とした建築デザイン、そして開閉の間、じっと待ち続ける英国社会の懐の深さは、お見事というほかありません。
毎年1000回以上も開閉しているタワー・ブリッジ
タワー・ブリッジのメンテナンス費用は、中世以来のロンドン・ブリッジの通行料が元手となって創設されたシティのブリッジ・トラストから拠出されています。荘厳なデザインは、スミスフィールド肉市場や旧ビリングスゲート魚市場のデザインを担当したシティの顧問建築家ホレス・ジョーンズによるものです。世界遺産の橋を無料で安全に通行できるのもシティのおかげというわけで、塔や欄干にはシティ紋章が数々掲げられています。
この橋のエンジン・ルームは必見ですが、見学するには入場料がかかるじゃないか、という方、 ぜひ近所の聖キャサリン・ドックスを散策されることをお勧め致します。管轄的にはシティから外れますが、産業革命時代に造られた可動橋が今も使われ、タワー・ブリッジの跳開の仕組みを理解するのに役立ちます。今や豪華クルーザーが停泊するマリーナですので、遊歩道でお茶すれば、モナコにいるような気分も味わえます。
聖キャサリン・ドックスは今や豪華マリーナに
元々は12世紀に建てられた聖キャサリン教会を囲むように貧しい地区が拡がっていましたが、19世紀前半に行われたドック建設で一変しました。設計したトマス・テルフォードは産業革命期に数々の運河や橋、道路の建設を手掛けた英国土木工学の父と言われる人です。掘られた土は西ロンドンのベルグレイヴィアの造成に使われましたが、その後のベルグレイヴィアの発展具合からみても、この土地に良い養分が含まれているに違いありません。
19世紀に造られた引き込み型の可動橋やゴッホの「アルルの跳ね橋」と同じシーソー型跳ね橋、蓄圧器を利用していた跳開橋が、水都ロンドンの奥深い歴史を水面に映し出しています。豪華クルーザーが可動橋を開けるたびに視界がパッと開いて、乗船者たちは輝く明日へ向けて開運の扉が開いたような気分に浸れることでしょう。それにしても、ここの繁栄のご利益に少しでもあやかりたいと、付近の土を掻き集めて袋に持って帰ろうとするのは寅七だけでしょうか……。
(写真左から)引き込み型可動橋、シーソー型跳開橋、蓄圧型跳開橋