第88回 お散歩編: 英仏海峡に濃霧、欧州大陸孤立せり
これは英紙の天気予報で使われた伝説の見出しです―「Dense Fog in the Channel, Continent Isolated」。 海峡に濃霧立ち込め、欧州大陸孤立。あれ、孤立するのは英国の方では? 島国根性を揶揄しています。6月の国民投票で決めた英国の欧州連合からの離脱はどちらの孤立でしょうかね……。さて、街はクリスマス・シーズンの真っ只中。すっかり人影の薄くなったシティを抜け、年の瀬で賑わう欧州大陸への玄関口、シティ北のセント・パンクラス駅に行ってきました。
ユーロスターのターミナル駅
ここは2007年11月からユーロスターのターミナル駅となりました。もともとは1868年、英国中部鉄道の発着駅としてビールの総本山、バートン・オン・トレントから大量のビールをロンドンに運び込むために敷設。近くのリージェント運河を渡るため、高架線のままホームも高く、一方、ホームの地階はビールの貯蔵庫として大樽3つ分の長さできっちり小部屋が仕切られています。
駅の地階は大樽ビール12万個の貯蔵庫だった
プラットフォームを覆う鉄骨の屋根は当時、世界最大の径間を誇りました。屋根を支える青い鉄骨は設計者のヘンリー・バーロウの名を取ってバーロウ・ブルーと呼ばれます。後に建てられたホームに隣接するゴシック建築のホテルの赤いレンガ、ユーロスターの黄色い車両、そしてバーロウ・ブルーが見事に調和して「鉄道界の大聖堂」を見事に演出。ホームの先端ではデント社(ビッグ・ベンの時計メーカー)の時計が金色に輝きます。
デント社の時計と恋人像
その時計の下では9メートルもある恋人の像が抱き合っています。「The Meeting Place」と呼ばれるこのロマンティックな像は再会を祝っているのか、別れを惜しんでいるのか。東京駅の待ち合わせ場所「銀の鈴」の名が厳粛な神社の御鈴が由来と知ると、日英の文化の違いが分かります。でもこの駅、20世紀後半に利用者が激減して採算が取れず、解体計画が浮上しました。先頭に立って反対運動をしたのが詩人ジョン・べッジャマン。
駅を救ったベッジャマン
彼のお陰で駅は生き延び、現在の繁栄があります。彼の銅像が高い屋根を見上げる姿は生きているよう。そうそう、コンコースには誰でも弾けるようピアノが数台置かれています。ミュージシャンのエルトン・ジョンが贈ったピアノを旅行者が弾いていました。
エルトン・ジョンが贈ったピアノ
歳月が優しく流れ、歴史あり、出逢いありの国際色豊かな場所。どんなに深い霧が立ち込めても孤立しませんね、今や海底トンネルで結ばれていますから。それでは皆様、ボン・ノエル、どうぞ良いお年を。
大聖堂のような駅舎