第186回 石焼き芋と遠い宇宙の世界
家の近くのスーパーでサツマイモが売られていました。やっぱり冬は「い~しぃや~きいも~」の季節ですね。子どものころ、新聞紙に包まれた石焼き芋をたくさん食べた記憶があります。なぜ、芋を石で焼くのか疑問に思いませんでしたが大人になってから、それは焼かれた石が放射する遠赤外線の熱により芋のデンプンが甘い麦芽糖に変わるからだと知りました。遠赤外線は波長の長い赤外線で対象物を内側から熱します。
ロンドンの焼き芋も甘い
そう言えば遠赤外線で焙煎したコーヒーがおいしいのも、炭火で焼いた焼肉がおいしいのも遠赤外線のおかげとよく耳にします。特にイタリア人から聞いたのは、ローマのピザとナポリのピザが違うのは単にローマのピザがカリカリで、ナポリがモチモチという食感だけでなく、遠赤外線を利用して焼く石窯の石が違うというものです。ピザ発祥の地、ナポリでは石窯の原料となる石にまでこだわるという点が印象的でした。
マルゲリータはナポリの代表的ピザ
南欧では古代から平らなパンが作られていましたが、スペイン人が新大陸からトマトを持ち帰ってからは、旧スペイン領だったナポリの人々がパンの具にトマトを使い出し、それがピザの始まりだとされています。ところがその石窯がちょっと特別でした。ナポリの石窯は火成岩、つまり遠赤外線をよく放射する溶岩石でできていたそうで、ピザをゆっくり、じっくり焼き上げることができるので外側がカリッとしても内側がモチモチに焼き上がります。
ナポリの石窯は溶岩石製
岩石には火成岩、堆積岩、変成岩の3種類があります。概して火成岩には遠赤外線の放射率の高い鉱物が多く含まれ、南イタリアには火山がありますから、ナポリの地元の溶岩石で作った石窯は遠赤外線をよく放射します。一方、ローマでは薄い生地のピザを短時間で高温に焼き上げることが優先され、石窯は耐火れんが製が多いようです。
赤外線を発見したハーシェルの実験図
さて、太陽光の中には目に見えないが物を温める部分があると赤外線を発見したのは英国の天文学者ウィリアム・ハーシェルです。ハーシェルはもともとドイツのハノーヴァー公国出身の音楽家で、18世紀半ばに英国に移住しました。音楽を研究しているうちに天文学に夢中になり、自前で望遠鏡を作って天文観測を開始。天王星を発見するほか、赤外線も発見しました。現代の赤外線天文学はハーシェルなしには語れません。何億光年も離れた天体の観測ができるのも、石焼き芋がおいしく焼けるのも赤外線のおかげです。
ウィリアム・ハーシェル
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