第187回 壁に耳あり、通りに顔あり
昨年、公道でYouTube寅七チャンネルの撮影をしていたところ、突然、ガードマンがやって来てこの場所は撮影禁止だから去るようにと追い出されました。その場所が裁判所の正面近くだったので、寅七が裁判所を撮影しているとでも思ったのでしょう。裁判所周辺には無数の監視カメラ(CCTV)が設置されていることに、今さらながら気が付きました。
至るところに監視カメラ
2020年11月の調査によりますと、ロンドンの街には約69万台のCCTVが設置されており、これは市民13人に1台の割合になるそうです。でも欧州最大のCCTV設置台数を誇るロンドンも最近の中国の大都市にはかないません。中国では新型コロナ対策で人工知能技術による顔認証可能なCCTVの設置が進み、もはやプライバシーの侵害という論争を通り越して、病歴や犯罪歴、ひいては個人の信用スコアを算定するためにCCTVが普及しているそうです。「ソーホーの七つの鼻」の一つ
実は1990年代以降のロンドンでは、監視社会を警戒する多くの芸術家がCCTVの設置に抗議して、繁華街の壁に耳や鼻、顔の像を埋め込みました。最も有名なのがトラファルガー広場近くのアドミラティ・アーチの壁をはじめとする、ソーホー地区の七つの鼻です。かつては30以上の鼻があり、それを巡るガイド・ツアーも人気だったとか。今では七つに減りましたが、日本の七福神巡りならぬ「七鼻巡り」をすると幸運を呼ぶのかもしれません。
グレゴスの顔像はさまざまな表情を浮かべる
「七鼻巡り」がストリート・アートの一部とすれば、東ロンドンも負けていません。シティ東隣りのショーディッチ地区には壁に埋め込まれた耳(音声監視中の注意)やフランスの有名アーティスト、グレゴスの創作した顔の像がたくさんあります。それはグレゴス自身の顔のレプリカで、それぞれに喜怒哀楽の表情を浮かべCCTVよりも社会の実態をよく映し出しているのかもしれません。
現代アート版の「見ザル、聞かザル、言わザル」
思えばこうしたストリート・アートは都市の東側の貧民地区から発生することが多いようです。北半球では自転の影響から風は西から吹き込みますので、各国の大都市に産業が発達した際、汚染した空気を嫌う富裕層が風上の西に住み、貧民層は風下の東に住みました。既存社会に抗議する狼煙は常に東の貧民地区から上がります。ロンドン東部ブリック・レーン脇の現代版「見ザル、聞かザル、言わザル」は新型コロナ時代の社会を反映しているのか、それとも既存社会への抗議なのか。裏通りの影が濃いのもロンドンです。
寅七の動画チャンネルちょい深ロンドンもお見逃しなく!