第202回 聖ミカエルの日とガチョウ
9月29日は「聖ミカエルの日」です。つまり、大天使ミカエルなどの天使と一緒に秋の収穫を感謝する日。この感謝祭では3つのG、手袋(Glove)、生姜(Ginger )、ガチョウ(Goose)が供されます。豊穣を神に感謝すると同時に栄養価の高いガチョウ、薬用効果のある生姜を食して厳しい冬に備える目的があります。また、左手の手袋はマーケットの出店許可のシンボルだそうで自由に露天で販売して良いという意味だそうです。
聖マイケルと天使たち(聖マイケル教会)
考えてみますと商人(あきんど)や商(あきな)うという日本語の語源も、収穫の「秋」に商売が盛んになることと関係あるようです。商売が盛んになれば同時にお金の流通も活発になります。イングランドでは古来、クォーター・デイズ=四半期支払日といって3月25日(受胎告知の日)、6月24日(洗礼者ヨハネの日)、9月29日(聖ミカエルの日)、12月25日(クリスマス)が借金の返済日や家賃の支払日になっていました。
おいしいガチョウのロースト
四半期支払日は夏至、冬至、春分、秋分の二至二分とほぼ同じ時期です。季節の変わり目に当たる、誰もが忘れない聖人祭の日を支払期日にするとは慧敏(けいびん)です。また、9月29日はサクソン時代のイングランドでは地方の管財人や税務官が年度決算を締めて税金を確定する日でした。同時に税務官が任期を終える日でもあり、その伝統が現在のシティの市長に受け継がれています。シティの市長は毎年9月29日に改選されます。
シティの市長は聖ミカエルの日に改選
ところで聖ミカエル祭になぜガチョウを食するかについては諸説あります。定説は1588年にスペイン無敵艦隊を破った女王エリザベス1世が戦勝祝いにガチョウを食べたというものです。また、四半期支払日には賃貸人が約束したお金を支払うと共に春なら魚料理、夏なら陸鳥(家禽)、秋ならガチョウ、冬なら肥育鶏を贈る習慣があったそうです。お世話になった人に旬な食材を贈るなんて日本のお中元やお歳暮と同じですね。
14世紀からあるレデンホール・マーケット
そうそう、シティのレデンホール・マーケットには有名なガチョウが住んでいました。レデンホールは14世紀後半から存在する生鮮食料品マーケット。ここでわずか2日の間に3万4000羽ものガチョウが処理されたとき、逃げ回って奇跡的に生き延びたのがガチョウのトムです。その後、トムは37歳9カ月までマーケットで飼われ、1835年3月に死亡した際は、「タイムズ」紙にニュースが掲載されたほどです。アーケード内には今もトムを所縁とするパブ「オールド・トムズ・バー」があり、にぎわってます。
ガチョウのトム所縁のパブ
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