第208回メリー・クリスマスというあいさつ
今年もクリスマスの季節がやって来ました。毎年12月25日午後3時に始まるロイヤル・クリスマス・メッセージは英連邦諸国にとっての伝統行事。1932年にジョージ5世がラジオ放送で始めて以来、ジョージ6世、エリザベス2世と、90年近く国民に語り続けてきました(1969年だけ演説ではなくテレビ特番放映)。あいさつには「メリー・クリスマス」ではなく「ハッピー・クリスマス」を使うのが当初からの慣例です。
ジョージ5世のラジオによる1934年のクリスマス・メッセージ
周囲の英国人にハッピーとメリーの違いを質問すると、どちらも「うれしい、喜ばしい」という意味ですが、ハッピーには内面的な幸福感、メリーには外面的な行動を表す印象があり、ハッピーを使うのは最近の傾向だそうです。古くから使われてきたのがメリー・クリスマス。16世紀の賛美歌「I Wish You a Merry Christmas」の一節や1534年にジョン・フィッシャー司教がトマス・クロムウェルに宛てた手紙のあいさつが最古の記録とか。
1843年、初めてのクリスマス・カードが発売された
ただし、一般の人がメリー・クリスマスを頻繁に使うようになるのは1843年以降のことです。この年に初めてクリスマス・カードの印刷が開始され、チャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」が出版されるとこのあいさつが英国社会に普及しました。
王室の1848年のクリスマス風景
19世紀半ばの英国は未曾有の経済的繁栄を手に入れる一方、工業化や都市化のもたらす傲慢さや偽善、貧富差の拡大といった社会の歪みや矛盾が激しい痛みとなって表れてきました。社会を改善するために多くの有志が立ち上がったのはこの頃です。後にヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の館長になるヘンリー・コールは当時、郵便制度改革に注力していました。家族や社会の絆を取り戻すには簡易なカードの郵送が役立つとして「A MerryChristmas and a Happy New Year to You」という言葉と共に家族三代の絵の付いたクリスマス・カードを考案しました。
ディケンズの「クリスマス・ キャロル」初版の挿絵
また、ディケンズは小説「クリスマス・キャロル」を発表し、物語の中で「メリー・クリスマス」のあいさつが21カ所も出てきます。ディケンズはクリスマスを「善意の大祝祭日」として皆が助け合う社会の再構築を目指しました。この作品を通じて、過去の自分、現在の自分、未来の自分と向き合い、各自が慈善の気持を忘れずより良い社会に向けて努力することの大切さを訴えました。何度読んでも頭が下がります。皆様、本年も大変お世話になりました。メリー・クリスマスと共にどうぞ良いお年をお迎え下さい。
寅七からメリー・クリスマス
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