第209回 虎の宝石の謎のほほ笑み
謹賀新年、あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。今年の干支は寅ですが、寅七は年男になります。寅年で有名な英国人には、エリザベス2世と古くはナポレオン艦隊を破ったホレイショ・ネルソン提督がいます。寅年生まれには清廉潔白な人物が多いなぁとつくづく寅七はほほ笑んでおります。
謹賀新年、寅七の年賀状
今年の干支が何かを知るのは日本の年賀状による場合が多いと思います。でも、年賀状が一般に普及するようになったのは1873年に官製ハガキが作られて以降のことだそうです。郵政改革で料金が全国均一になり、お手頃価格のハガキの年賀状が年始のあいさつに取って代わったそうで、それはちょうど、英国郵便改革による1ペニー切手の振興策として、1843年に考案されたクリスマス・カードが普及していった様子に似ています。
機械仕掛けの楽器「ティプーの虎」(V&A博物館所蔵)
さて、寅にちなんだ話をもう一つ。クリスマス・カードを考案した官僚のヘンリー・コール氏は後にV&A博物館の初代館長になりますが、この博物館の人気展示品といえば「ティプーの虎」。大きな虎が英国兵士に襲い掛かる模型に、機械仕掛けの自動楽器が内蔵されています。この楽器は1799年に東インド会社が南インドのマイソール王国を征服した際、ほかの財宝と共にティプー・スルタン国王から収奪されました。同国王は自動音楽を聴きながら英国の敗北を夢見ていたのでしょう。
ティプー・スルタン国王
かつてティプー国王は鍛冶屋と花火職人に命じて鋼製のロケットを作らせ、ロケット砲部隊を有していました。1200人の部隊が5000発のロケットを一斉射撃できたらしく、国王は近代ロケットの父ともいわれています。軍旗や武器には虎のエンブレムが描かれ、英兵士は部隊を「マイソールの虎」と恐れました。フランス・ナポレオン軍は英国の海外進出を阻むため、1798年にエジプトを攻めてインドにいる国王と同盟を結ぼうと試みました。
マイソールのロケット砲
それを聞いた当時のインド総督、リチャード・ウェルズリーとその弟のアーサー大佐が「マイソールの虎退治」に動きました。アーサー大佐は後にナポレオン軍を撃破するウェリントン公爵のことです。99年にマイソール王国が敗れた際、英国は財宝と一緒にロケット砲を持ち帰って改良し、これが後にナポレオンとの戦争に貢献しました。もし、ナポレオンがナイルの海戦でネルソン提督に勝ち、マイソールの虎と同盟していたら世界はどうなっていたでしょう。V&A博物館のティプーの虎の宝石が謎のほほ笑みを浮かべています。
ティプー王の虎の宝飾品(V&A博物館所蔵)
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