第228回 シティのストリート・ファーニチャー
日本から遊びに来た友人とシティを歩いていたら、街路に置かれている公共物を見てこれは何? あれは何?と質問攻撃を受けました。普段から疑問に思わなかったものが、改めて質問を受けると新奇なものに見えてくるから不思議です。ロンドンの街路にある定番の設置物といえば赤い電話ボックスと黒いゴミ箱だと思っていましたが、いやいや、英国の歴史を物語る設置物がそのほかにもたくさんあります。そのいくつかをご紹介しましょう。
まずはボラード。もともと船を岸壁に係留するための杭でしたが、現在は車両の進入止めに使われています。行政区によって形状や大きさが定められ、シティではC3タイプ(高さ1304ミリ)とD3タイプ(同1200ミリ)が多いです。古いボラードには英国海軍の大砲を溶かして作られたものがありますが、ナポレオン戦争で奪い取った仏軍の大砲を溶かしたものはシティでどんどん数が減り、今では聖ヘレン教会前に一つだけ残っています。
左からC3タイプ、D3タイプ、仏軍の大砲から作られたボラード
次はマンホール。人が穴に入って作業するからマンホール、小さいものならハンドホールと呼ばれます。ガスや電気、上下水道、通信回線、消火栓などさまざまなものが道の下に埋められてきました。石炭の投入口であるコール・ホールやパブの店前にある酒樽の搬入口パブ・ハッチ(ビア・ドロップ・ドアとも呼ばれる)を見つけるとなぜかうれしくなります。でもパブ・ハッチは、見ているとひきずり込まれそうな気分になるので、傍には近づきません。
左がパブ・ハッチ、右がコール・ホール
そして建物の前のペーヴメント・ライト。歩道が建設される際、道路沿いの建物は歩道からセットバックといって無理やり後退させられました。でも建物の地下部分は残ったままですから歩道の下にある空間を照らすために採光用のガラスを張りました。このガラスはプリズムを利用して、太陽光を横に屈折させて地下の空間を広く照らします。ペーヴメント・ライトの位置から昔の建物の軌跡をたどることができます。
ペーヴメント・ライトは採光用ガラス
最後に建物の壁にご注目ください。パリッシュ・バウンダリー・マークという、かつての教区境界を示した標識があり、アルファベットの略字が教会の名前を表しています。また、古いレンガ壁にアンカー・プレート(壁繋ぎ)をたまに見かけます。レンガ壁に金属版が打ち込まれ、その金属板の下のボルトが内側のコンクリート柱や反対側の壁と結ばれています。これは中世から使われている壁の横揺れ防止策でいろいろなデザインがあります。
イングランド銀行壁の教区境界標識
ブルズ・アイ型と呼ばれるアンカー・プレート
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