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Mon, 18 November 2024

第274回 ロンドンの地下鉄とパンタグラフ

2022年5月に開通した地下鉄エリザベス線はロンドンの地下鉄で初めて車両の頭上にパンタグラフを持ちました。とても豪華に見えます。パンタグラフは頭上の架線から電気を得るための集電装置のことですが、架線柱を無くしてトンネルを小さく掘り、建設費を抑えたい地下鉄では使われてきませんでした。特にロンドン地下鉄の多くの路線は世界でも珍しい第4軌条方式で集電しています。でもなぜ第4軌条方式が採用されたのでしょう。

エリザベス線のパンタグラフ エリザベス線のパンタグラフ

ロンドン地下鉄にはレールが4本、つまり、2本の走行レールに加えて、その外側に+420ボルトの給電用レールと走行レールの間に-210ボルトの帰電用レールがあります。給電用と帰電用のレールの電位差が630ボルトあり、電車の台車から伸びる集電靴がそれらに接して電気を得ます。英国は石炭による産業革命で発展したものの、石油や電気による第2次産業革命がやや遅れ、特にロンドン地下鉄の電化はなかなか進みませんでした。

4本のうち2本は誘電レール 4本のうち2本は誘電レール

1863年の開通以来、蒸気機関車が走る世界初の地下鉄メトロポリタン線に電化の話が出たのは19世紀末のことです。それは競合する他社が地下鉄で電車を走らせたからでした。シティとロンドン南部ストックウェルを結ぶシティ・アンド・サウス・ロンドン鉄道や、現在のセントラル線では電気機関車が客車をけん引し始めましたが、両線とも建設コストが高く、米国から輸入した電気部品も高価なため、維持費用がかかって儲かりませんでした。

1890年電気機関車が客車をけん引した地下鉄 1890年電気機関車が客車をけん引した地下鉄

そこに登場したのが米国シカゴの投資家、チャールズ・ヤーキスです。ヤーキスはすでにシカゴで廉価な鉄道の高架化や環状路線化の事業で利益を上げており、ロンドン地下鉄を新しい投資先と考えました。1902年にロンドン地下電気鉄道という持株会社を設立し、次々と地下鉄を買収し、発電所も建設して低コストで地下鉄の電化を進めました。工事資金を米国投資家から集め、シカゴと同じ第3軌条方式の導入をロンドンで試みました。

 米投資家チャールズ・ヤーキス 米投資家チャールズ・ヤーキス

ところが政府は誘電レールから高電圧が漏れ、地中の電信ケーブルに及ぼす影響を懸念しました。そこで誘電レールを給電用と帰電用に分けて電圧を下げれば電気の遺漏が少なく、当時の信号システムにも都合良かったので第4軌条方式が承認されました。やがてロンドン地下電気鉄道は旅客運輸公社に買い上げられ、ロンドン交通局になります。こうしてロンドンの地下鉄の電化は狭いトンネルの中で廉価で実現され、一方のエリザベス線は大幅に予算超過して開通。こうした経緯を知るとさらにパンタグラフが伸び伸びして見えます。

 こんなに違う地下鉄のトンネルの幅 こんなに違う地下鉄のトンネルの幅(左が従来線、右がエリザベス線)

寅七さんの動画チャンネル「ちょい深ロンドン」もお見逃しなく。

 

シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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