#16 シニカルなボリス・ジョンソン首相の塗り絵
レス・ザン・ファイブ・ハンドレッド・プレス / シット・ドローイングス・オブ・ボリス・ジョンソン
Less Than Five Hundred Press / Shit drawings of Boris Johnson
£2
www.lessthanfivehundred.com
www.etsy.com/uk/shop/LessThan500Press(購入サイト)
国民は政治に対してさまざまな思いを抱いている。投票、デモ活動など、一定の行動を通して政治に関わっているが、その意欲を創作活動に向けた人もいる。今回は、ボリス・ジョンソンが首相に就任する前から販売され、各地のアート・フェアに出店するたびにソールド・アウトになる、話題のジン(zine)を紹介しよう。
ジンとは自費出版の個人的なマガジンのこと。内容がどうであれ、誰にも許可を取らずに出版できることから、買い手がいればいるほど、自分のアイデアが世間に受け入れられるかを知ることができる。レス・ザン・ファイブ・ハンドレッド・プレスを立ち上げたマーク・ビーチル氏の「シット・ドローイングス・オブ・ボリス・ジョンソン」も実験的な試みの一つだった。
ビーチル氏は、2017年に参加したイングランド東部ノリッジのアート・フェアで、アナグマをひたすらスケッチしたジンを見かける。「数ある動物のなかから、特別特徴があるわけでもない動物をモチーフにした」というアイデアに強く惹かれ、16年の国民投票をテーマに自身でも描いてみることにした。絵があまり得意ではなかったため、ヘタクソな絵になってもそれにふさわしい人物として、テリーザ・メイ前首相とボリス・ジョンソンを選出。カバーを含め、両手でサムズアップをする、テニス・ラケットを持つ、あくびをする、など全部で17タイプのボリスが稚拙なタッチで描かれ、最後のページには「髪の毛の部分を描くのが一番つまらなく、大変だった」「テリーザ・メイより、描きがいがない」、などと感想を入れた。
「不満を抱く有権者たちのための塗り絵」というストレートなサブタイトルと、ボサボサ頭に邪悪な顔つきのボリス・ジョンソンが描かれたこのシンプルな小冊子は、アート・フェアに出店するたびに飛ぶように売れた。購入者のほとんどがアンチ・ボリス派だったが、なかにはファンからの購入もあった。首相就任、新型コロナなど、販売時期により、購買層に違いがあったことが印象的だったという。日々のちょっとした憂さ晴らしに、ユーモアな塗り絵を楽しんでみてはいかがだろうか。
15 October 2020 vol.1565