#50140年近く伝統の味を守り続けるビスケット
ジンジャーの香りとカリッとした食感が特徴のビスケット、コーニッシュ・フェアリング。耳慣れないフェアリングという言葉は、ヴィクトリア時代にはイングランドで開催されるお祭り(フェア)で売られる食品全般のことだった。しかし、時が経つうちに子どもへのご褒美や、男性が恋人に贈るためのジンジャー・ビスケットを指すようになり、やがて、ファーニス社によるジンジャー・ビスケットがあまりに好評だったことから、いつしかコーニッシュ・フェアリング=ファーニス社のジンジャー・ビスケットそのものを表すようになった。
コーニッシュ・フェアリングは、1886年にジョン・クーパー・ファーニス氏が英南西部コーンウォールのトゥルーロ(Truro)でティー・ショップを開いたことから始まる。地元産の厳選された食材を用いて製造されたビスケットは、その品質と味へのこだわりで評判を呼び、周辺地域からの注文が殺到、10年後にはコーンウォール中、その後は英国中の食料品店でファーニスのビスケットが販売されるようになっていた。88年にファーニス氏が急逝した後も、会社はその精神を受け継ぎ、1950年代にはコンベアにのせて焼けるトラベリング・オーブンと呼ばれる最新技術を活用しながらも、伝統的な製法を守り続けた。現代においてもそれは変わらず、2022年には新たにクッキー・シリーズを発売するなど、時代に合わせた新商品を展開している。
現在ロンドンのスーパーマーケットなどではなかなか目にすることのないフェアリングだが、英国の人気シェフ、リック・スタイン氏は、コーニッシュ・フェアリングをクロテッド・クリーム、コーニッシュ・パイと並ぶ、コーンウォールの3大名物に数えているほど。運良く同商品に出合えたときは、ぜひ手に取ってみては。オール・スパイスやシナモン、そしてゴールデン・シロップも入った歯ごたえのある素朴な風味は、昭和から続く泉屋東京のクッキーにも似ており、どこか昔懐かしい味わいだ。表面にひび割れがあるので、ミルク・ティーやコーヒーに浸して食べるのにも適している。