ベアトリクス・ポターの生涯を描いた映画 「Miss Potter」のロケ地を訪ねる
「ピーター・ラビットのおはなし」などで日本でも有名な絵本作家ベアトリクス・ポターの生涯を描いた映画「Miss Potter」が1月初旬に英国で公開された。日本人の間で特に根強い人気があるピーター・ラビットの作者だけに、今年9月に予定されている日本での同映画公開後には、彼女が生活の拠点とした湖水地方への旅行が日本でブームになるとも言われている。そこで今回は一足お先に、映画のロケ地と合わせてポター縁の地をご紹介。多彩な経歴を持つ彼女の魅力もたっぷりとお伝えします。(本誌編集部: 長野雅俊)
映画「Miss Potter」(邦題:ミス・ポター)
「ピーター・ラビット」で有名な絵本作家ベアトリクス・ポターの半生を追った物語。ポターを米女優レニー・ゼルウェガーが、その婚約者を英俳優ユアン・マクレガーが演じる。ポターが実際に過ごした湖水地方の各名所をロケ地として使用し、またピーター・ラビットを始めとするキャラクターがCG映像で描かれるなど、家族全員で映像美を楽しめるファミリー映画。
1スクリーン全体に映し出される絶景
ターン・ハウズ
Coniston and Tarn Hows
「Miss Potter」では、湖水地方ならではの美しい風景のカットがストーリーの合い間で効果的に使われている。その1つが、1929年にポターが購入したターン・ハウズと呼ばれる小さな湖と、その周りを囲う広大な敷地。遠景には山々が連なっており、その他の観光スポットとは一線を画した険しいぐらいの野性味溢れる景色が広がっている。この辺りまで来ると観光客の数もぐんと減るので、湖水地方のまた違った顔を発見することができるかもしれない。特にターン・ハウズを取り巻く周囲約2.5キロの散歩道はのどかで美しい。
Coniston and Tarn Hows
Tel: 015394 41533(ツーリスト・オフィス)
www.conistontic.org
2未来の夫の事務所
ザ・ラム・ストーリー
The Rum Story
後にポターの夫となる事務弁護士ウィリアム・ヒーリス氏の事務所として撮影に使用されたのは、ちょっと意外な場所。ここはかつてラム酒貿易で栄えたホワイトヘブン地区の歴史をテーマとしたエンターテイメント施設なのだ。施設内にはこのラム酒貿易で莫大な資産を築いたジェファーソン一家のオフィスがあるのだが、「Miss Potter」撮影のためにわざわざ改築が施されたという。かつては貿易に関わる作業について細かい指示を出し、また労働者たちの監視を行ったといういわば司令塔が持つ独特の気高い雰囲気が、当時の事務弁護士が働いた事務所の再現に一役買っている。
The Rum Story
Lowther Street, Whitehaven, Cumbria CA28 7DN
Tel: 01946 592933
www.rumstory.co.uk
3ポターが庭を耕す場面を撮影
ユー・トゥリー・ファーム
Yew Tree Farm
ロンドンの実家を離れて湖水地方に住まいを移したポターが、ヒル・トップと呼ばれる自宅の庭で楽しそうに農作業を行うシーンがある。その撮影が行われたのがこのユー・トゥリー・ファーム。実際ここは、地元の再開発計画から守るためにポターが購入した農場の1つであった。さらにはこの敷地を使って当時はまだ珍しかったB&Bの経営に乗り出し、アフタヌーン・ティーがたしなめる喫茶室まで作ったという。当時の面影はそのまま残っており、敷地の狭さから撮影が見送られた本物のヒル・トップに代わってロケ地としての役割を見事果たした。
Yew Tree Farm
Coniston, Cumbria LA21 8DP
Tel: 015394 41433
www.yewtree-farm.com
4ポターが1人佇む湖
ダーウェント湖
Keswick & Derwentwater
「Miss Potter」のストーリー後半で、レニー・ゼルウィガー演じるポターが湖畔で佇む姿を捉えたシーンが度々出てくる。このロケ地に多く使われたのが、湖水地方の巨大な国立公園の一部となっているダーウェント湖。実際この界隈には、ポター自身が41歳になるまで家族と一緒に休暇を過ごした別荘があった。ポターはこの地において目にした木々や庭、その他の風景を描いた多数のデッサンを残しており、特に「ベンジャミン・バニーのおはなし」や「ティギーおばさんのおはなし」などの物語の舞台として知られている。
Keswick & Derwentwater
Tel: 01768 772645(ツーリスト・オフィス)
www.keswick.org
5ロンドンと湖水地方をつなぐ高架橋
セトル・カーライル・レイルウェイ
Settle-Carlisle Railway
ロンドンに住んでいた幼き頃のポターが湖水地方へと家族旅行に出掛ける時、また大人になったポターが両地間を移動する際と、2回にわたって大きく映し出されるのが高架橋。英国北部の田園地帯という見晴らしの良い風景の中を、蒸気機関車が走っていく姿は圧巻だ。ロケ地として使われたのは、今でも運行を続けるセトル・カーライル・レイルウェイの線路上。イングランド中央部のリーズからスコットランド近郊カーライルまで北上しながら、英国の田舎に残る美しい風景を車窓に次々と映し出す、希少な路線である。
Settle-Carlisle Railway
Tel: 0845 748 4950
www.settle-carlisle.co.uk
6ポターの代名詞
ヒル・トップ
Hill Top
こちらはポターが湖水地方での生活の拠点とした本物のヒル・トップ。家の庭には、彼女が描いた物語の場面そのままの光景が残っている。
Hill Top
Near Sawrey, Hawkshead, Ambleside,
Cumbria LA22 0LF
Tel: 015394 36269
www.nationaltrust.org.uk
7物語の世界を再現
ベアトリクス・ポターの世界
World of Beatrix Potter
絵本に登場するキャラクターの展示するなど、絵本の中の世界をできるだけ忠実に再現した博物館。小さなお子さんなどは、ここに来ればまず間違いなく喜ぶはず。
World of Beatrix Potter
Bowness on Windermere,
Cumbria LA23 3BX
Tel: 015394 88444
8貴重な資料を保存
ベアトリクス・ポター・ギャラリー
The Beatrix Potter Gallery
小さい頃に受けた英才教育のお陰で、風景画の教養と技術も持ち合わせていたポター。ここでは絵本の世界とはまた一味趣の違った水彩画などが展示されている。
The Beatrix Potter Gallery
Main Street, Hawkshead, Cumbria LA22 0NS
Tel: 015394 36355
www.nationaltrust.org.uk
9ポターがこよなく愛した別荘
リンデス・ハウ・カントリー・ハウス
Lindeth Howe Country House
当時ヒル・トップに住んでいたポターが購入した別荘。ここで「カルアシ・チミーのおはなし」や「こぶたのピグリン・ブランドのおはなし」を描いたとされる。
Lindeth Howe Country House Hotel
& Restaurant
Lindeth Hill, Longtail Hill, Windermere LA23 3JF Windermere
Tel: 015394 45759
www.lindeth-howe.co.uk
ロンドンのロケ地
40歳を過ぎてから湖水地方に引っ越すまでは、ロンドンの実家を生活の拠点としていたポター。このため「Miss Potter」のストーリー前半では、ロンドンで撮影されたシーンも多い。
ポターが通った印刷所
ザ・タイプ・ミュージアム
The Type Museum
まだコンピューターが存在しない時代。当時そのままの状況を保存したこの博物館において、印刷所を訪れたポターが厳しく注文を付けるシーンが撮影された。
The Type Museum
100 Hackford Road SW9 0QU
Tel: 020 7735 0055
www.typemuseum.org
親友との出会い
オスターレイ・ハウス
Osterley House
ロンドン郊外にあるチューダー朝建築の別荘。後に婚約するウォーンの姉ミリーと絵を観賞しながら、「女性は結婚するべきではない」と誓い合う場面のロケ地として使用された。
Osterley House
Jersey Road, Isleworth, Middlesex TW7 4RB
Tel: 020 8232 5050
初版本が並んだ本屋
ナイジェル・ウィリアムズ
Nigel Williams
ポターが自作の絵本が陳列されているのを発見し、興奮するシーンが撮影された古本屋。この通りには、古本屋が多く軒を連ねている。
Nigel Williams
25 Cecil Court, Charing Cross Road
WC2N 4EZ
Tel: 020 7836 7757
www.nigelwilliams.com
馬車が駆け抜ける道
ハイド・パーク
Hyde Park
19世紀の英国を舞台とした「Miss Potter」では、上流階級出身のポターが馬車を使って移動する場面が多く見られる。これらの撮影の大半が行われたのが、ご存知ハイド・パーク。
Hyde Park
Ranger Lodge, Hyde Park W2 2UH
Tel: 020 7298 2100
www.royalparks.gov.uk/parks/hyde_park
湖水地方への行き方
ロンドンのユーストン駅からオクスンホルム・レイク・ディストリクト駅まで約3時間30分。現地には公共の交通機関が少ないので、車がなければツアーを申し込むのが無難。
湖水地方で高まる「日本熱」
際のレニー・ゼルウィガー
2006年12月4日付の「ガーディアン」紙は、日本市場をめぐってコッツウォルズ地方と激しい競争を繰り広げている湖水地方が、まさに千載一遇の機会として日本人旅行者の受け入れ準備を進めていると報じた。同紙によると、現地を訪れる旅行者の約6%が日本人であり、その数は年々増大しているだけに期待は大きいようだ。
また同年8月6日付の「デーリー・テレグラフ」紙は「日本人の侵略に備えるピーターラビットの里」との見出しを掲げて、各旅行関係者たちが、日本語での挨拶とお辞儀の仕方についての勉強が奨励されていると報道。さらに日本独特の過剰包装、「芸術的」とまで呼べるほど整然とした列を成して順番待ちする慣習について学ぶセミナーも開かれているという。
「ベアトリクス・ポターの世界」館長であるリチャード・フォスター氏は「今年は、改めてベアトリクス・ポターの偉大さと湖水地方の固有性とを再認識してもらうには絶好の機会。日本で映画が公開される2007年後半から2008年にかけては、さらに大忙しとなりそう」と喜びを隠せない。彼を始めとする多くの旅行関係者が、映画効果に期待をかけているようだ。
取材協力: 英国湖水地方ジャパン・フォーラム www.kosuichihou.com
カンブリア観光局、Momentum Pictures