エキシビション AI: More than Human Barbican 16 May-26 Aug 2019
完全にプログラミングされているのではなく、
外界とのやりとりで動作を学んでいく機械人間オルタも登場する
八百万の神がAIの未来を明るくする?
現在バービカンで開催中の「AI: More than Human」展は、アート、サイエンス、テクノロジーなどさまざまなジャンルからAIの可能性を探るエキシビションである。ここでは本展のキュレーターの一人である内田まほろさんと、作品を展示しているチームラボの谷口仁子さんに、ロボットに対する日本と西洋の考え方の違いや、本展の魅力について伺った。
キュレーター 内田まほろさん
Profile
内田まほろ Maholo Uchida 「AI: More than Human」のゲスト・キュレーターの一人。日本科学未来館 展示企画開発課長・キュレーター。アート、テクノロジー、デザインなどの融合領域を専門とし、2002年より日本科学未来館に勤務。2005~2006年に文化庁在外研修員として米ニューヨーク近代美術館(MoMA)に勤務後、現職。―どのような展示を目指したのでしょうか。
まず人類の歴史を4000年ほどさかのぼり、人間が人間以外のインテリジェンス、知性やパワーをどのように扱おうとしていたのかを考える、日本の土偶や神道、ユダヤ教のゴーレム伝説の歴史を紹介する展示から本展はスタートします。その後、この50年の目まぐるしいコンピューター・サイエンスとAIの技術的な歴史、その内容を俯瞰し、それらテクノロジーが現代の社会の仕組みにどう関わっていくか、そしてテクノロジーと私たちがどのような未来を歩むのか、という点にフォーカスしていきます。いわゆる過去から未来への「旅」ですよね。原始時代から未来の人間まで、私たちがどのように進化し、今後どのように変化していくのか、宗教やアート、サイエンスを絡めながら旅してもらえたらいいかな、と思います。
このように、アート、サイエンス、テクノロジーが混在する展示は、かなり珍しいと思います。マニアックな人にも新しい情報を提供していますし、アート鑑賞として来場される方も楽しめる展示になっていると思います。
― タイトルのインパクトも手伝い、もっとガチガチなテック系のエキシビションかと思いました。
実は、私はこの「AI: More than Human」というタイトルに賛成していなかったのです。日本人が聞くと「人間以上」と訳してしまうじゃないですか。でも英国人と議論した結果、「ヒューマン」は人間性などを含む言葉だということで、(今までの)人間を越えていけ、人間自体が越えていくみたいな意味にもなると言うので合意しました。明るい意味を持って名付けられたことは確かですね。
展示内容に関して言えば、欧米ではAIにおけるバイアスの問題があり、社会的に注目するテーマとして敏感に扱われています。具体例で言うと、肌の色が黒いとネガティブな判断をされてしまうといった、コンピューターにおける白人有利のデータセット*が浮き彫りになっていること。また、クレジット・カードの信用度を測るAIプログラムが既に開発されているかは分かりませんが、米国における犯罪者は黒人の割合が多いために、「黒人だからちょっと危険」というデータがベースにあることで、バイアスがかかることが事実としてあります。欧米と比較すれば、日本ではこの手のトピックに関して割と鈍感なので、私も改めて考えされられました。
メディアなど人間が作るものは、人間が情報をコントロールしながら都合よく事実が編集されていますが、AIはデータから無感情で学んでいくので、欧米社会でもうない「ふり」をしている差別の問題がどんどん出てきているのが今の実情です。これこそAIに対する恐怖感の一つでもあり、同時に展覧会としては、一番面白いところでもあると思います。このような技術以外の倫理的な観点を展示に盛り込むことが大切でした。
*プログラムで処理されるデータの集合
―このエキシビションは英国人のスザンヌ・リビングストンさんと2人で企画されたそうですが、内田さんが力を入れた部分はどの部分ですか。
多神教である日本と一神教の西洋では、機械に対する考え方や使い方に大きな隔たりがあります。日本のヒューマノイドは諸外国からは変わっていると言われますが、日本人自身はそう感じていませんよね。ドラえもんやガンダム、エヴァンゲリオン、aiboがいるし、ロボットと暮らしたり融合するのが当たり前。「ど根性ガエル」なんてTシャツに住むAIで、私たちを助けてくれる点ではスマホとほぼ同じです(笑)。
基本的に日本人は機械に対してあまり怖さを感じませんが、それは機械(人工物)も人間も自然も一緒だと考える八百万の神の考え方に根付いているからであり、「別に人間が一番偉いと思っていない」のだと思います。例えば、ロボットを「人間のために働くもの」として見ている英国の人々に、人間の仲間としての存在という感性を、今回の展示を通じて少しでも感じてもらえたらなと思っています。人間より能力があるものを使い、開発することに対し、「リスペクト」や「愛」を持つと良いことあるんじゃないの、という考え方を伝えたいですね。
欧州未発売の最新のaiboも紹介される
― ロボットをパートナーとして考えるヒントをつかんでもらう、ということですね。
八百万の神の話を西洋の人にすると、「素晴らしい!」と言われます。その背景を考えてみると、英国はEU離脱も控えており、多様性が無くなっていくことに対する不安みたいなものが人々の間であると思うんですね。それに加え、この先テクノロジーがどこまでいってしまうんだろうとか、人間対テクノロジーが自分たちのコントロールできないところに行ってしまうのではないかという不安もあるでしょう。
そういった「多様性」という言葉に敏感になっているこの時期に、「いや、そもそもテクノロジーと人間ですら、同列に考えてみたらどうだろう?」と言われたら、なんだかハッピーになりませんか?私はそのメッセージを展示の中に分かるように入れたいと思っていて、新旧のaiboやドラえもんの映像など、いろいろな場面で、テクノロジーが人間のパートナーとして活躍するトピックを登場させるよう心掛けました。実際、日本では敗戦国となった後、兵器を造れなくなったことも背景にあり、人を傷つけるための技術は表向きには開発されていません。欧米から見ると変かもしれないけど、日本は幸せのための、ハッピーなテックばっかり開発している国なんだなということは改めて感じましたね。
チームラボ 谷口仁子さん インタビュー
― チームラボとして参加するに至った経緯を教えてください。
チームラボは、デジタルテクノロジーを使って作品を制作していますが、あくまでもそれは私達の作りたいものや、表現したいことを実現するツールであり手段です。最初AIをテーマにした展示と聞いた時は、正直私達の作品がその展示の中に入るイメージがあまり浮かびませんでした。
ところがキュレーターの内田さんから、AIについて日本以外の国ではネガティブな将来を描きがちなので、チームラボの作品で、テクノロジーと人間のポジティブな関係性を含めて未来に希望をもてるような形でエキシビションを締めくくりたいというお話を伺い、それであれば、ということで参加を決めました。
― 数ある作品の中から「世界はこんなにもやさしく、うつくしい」を選ばれた理由をお聞かせください。
今回は大規模なグループ・ショーなので、いろんな年齢層の方が楽しめ、体験しやすいもので、人間とサイエンス、人間と自然の関係性が表せる作品がいいかな、という話で内田さんと相談しながら決定しました。 この作品は、人々が文字に近づくと、その文字がもつ世界が現れ、世界を創っていきます。そして、その世界の中で互いに影響し合います。これは自分が起こしたアクションや、周りの人が起こしているアクションが影響し合って、一つの美しい世界を創るということを意味しています。これまでのアートでは、鑑賞者にとって他者の存在は邪魔な存在だったことが多かったと思いますが、この作品では、他者の存在をポジティブな存在として感じられるのではないかと思っています。
上から降りてくる文字に近づくと、その文字の持つ世界が現れ、世界を創っていく
「世界はこんなにもやさしく、うつくしい / What a Loving, and Beautiful World」
―アクションが起こることに意味がある、と。
この作品には、花、雨、鳥、海、山などの文字が登場します。文字から生まれたものたちは、スクリーン上での互いの位置や関係性、また物理的な影響などによって、リアルタイムで計算されて空間に配されるため、複雑かつ自然な世界をその都度形成します。例えば、花や雪は風が吹いてくれば飛ばされ、鳥は木に止まり、蝶は花が好きなので近づいていくという具合です。ですので、とりあえず触れてみたり、また一方で誰かが反応している様子を眺めてみたり、来場する皆さんが各々の感性で楽しんでくれたらいいですね。
― テクノロジーと人間はこの先どんな関係になっていくと思われますか。
テクノロジーがもっと進化していけば、いろいろなことが可能になりますし、時代をもっと前に押し進めていくと思います。チームラボは、デジタルの概念がアートを拡張し、新しい美を作ることができると考えています。アートの力で、人類の価値感を変え、人類全体の美の基準を変え、拡散できればと思っています。
Exhibition Info
AI: More than Human
2019年8月26日(月)まで
土~水 10:00-18:00 木・金 10:00-21:00
£15(土・日・祝日は£17)
Barbican Art Gallery
Silk Street, London EC2Y 8DS
Tel: 020 7638 8891
最寄駅: Barbican/Moorgate駅
www.barbican.org.uk