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Tue, 19 November 2024

5月8日は「VE DAY」75周年記念
Keep Calm and Carry On 第二次世界大戦、使われなかったプロパガンダ・ポスター

「Keep Calm and Carry On」と印刷された真っ赤なポスターやマグカップ、ティー・タオルなどをロンドンのお土産物屋の店先で見かけたことがある方は多いだろう。「落ち着いて、日常生活を続けよう」というこのスローガンは、新型コロナウイルスの時代を生きる今の私たちにこそしっくりあてはまるようだが、元は英国政府が第二次世界大戦開戦を目前に制作した、国民向けのプロパガンダ・ポスターから取られている。ここではポスターがたどった数奇な運命を紹介する。(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

VE DAYシンプルで強い印象を与える、今ではおなじみのデザイン

ドイツ軍の本土上陸に備えて

1939年春、もはやドイツとの戦争は不可避と考えた英政府は、情報省(Ministry of Information)に国民の士気を維持するプロパガンダ・ポスターの制作を命じた。当時は、開戦となればドイツ軍が数時間以内に英国内の都市を爆撃すると考えられていたため、政府は国民が空襲の恐怖で戦意を喪失することを危惧したのだった。情報省は、「Keep Calm and Carry On」(落ち着いて、日常生活を続けよ)「Freedom Is In Peril. Defend It With All Your Might」(自由は危機に瀕している。全力で防衛せよ)「Your Courage, Your Cheerfulness, Your Resolution Will Bring Us Victory」(あなたの勇気、元気、決意が勝利をもたらす)という3部作を制作。混乱した町中にあってもはっきりとメッセージが識別できなくてはいけないため、スローガン、フォント、配色など、どれもシンプルで強い印象を与えるようデザインされ、上部にはこれが国王と国家からのメッセージであることを示す王冠のイラストが配された。

何千もの人々がトラファルガー広場に集まったKeep Calm and Carry Onの他、同時期に作られたシリーズの2枚

上から目線があだとなり廃棄処分に

ポスターの印刷が開始されたのは1939年8月23日。9月1日にドイツ軍がポーランドに侵攻し、同3日、英国がドイツに宣戦布告するなか、まず「Freedom Is In Peril. Defend It With All Your Might」と「Your Courage, Your Cheerfulness, Your Resolution Will Bring Us Victory」の2つのポスターが街頭に貼り出された。ところが、当初すぐに大空襲が始まるという予想ははずれ、1940年5月のドイツ軍のフランス侵攻まで、英独は戦争状態にあったにもかかわらず陸上戦が全く行われない状態が続いた。国民やメディアはこれを「まやかしの戦争」(Phoney War)と呼びはじめ、それに伴い大きな政府予算を投じたポスターに対しても、スローガンが「上から目線」であるという批判が起きた。

ロンドンの帝国戦争博物館のアート・キュレーター、クレア・ブレナード氏によると、当時巻き起こった批判は、「ポスターのスローガンは人に考えを促し、自ら行動に移すように仕向けるべきで、命令されるようなものであってはならない」というものだった。また、「防衛せよ」という受身の姿勢や、勇気や元気といった抽象的な言葉が並ぶのは、第一次世界大戦時の政治家がよく演説に用いた手法で、当時の人々にはそれが控えめで古臭いと感じられたのではないかと語る。こうして先の2枚の評判が甚だしく悪かったことから、3つのポスターの中で1番多く印刷され、出番待ちをしていた250万枚あまりの「Keep Calm and Carry On」は日の目を浴びることすらなく、1940年4月に廃棄され再生紙の原料となった。

Grow Your Own FoodGrow Your Own Food
自分の食糧は自分で育てようという、非常に直接的なメッセージ

ほんの偶然から21世紀によみがえる

イングランドの最北、スコットランドとの境にあるノーサンバーランド、アニック(Ainwick)の町。そこにヴィクトリア時代の駅舎をそのまま利用した古本屋がある。バーター・ブックス(Barter Books)と呼ばれるその店は、1991年に英国人と米国人カップルによって始められた。第二次世界大戦から半世紀以上を経て、21世紀に「Keep Calm and Carry On」がよみがえったのは、このバーター・ブックスのおかげといえる。

バーター・ブックス Barter Booksヴィクトリア時代の駅舎をそのまま利用した古本屋、バーター・ブックス

2001年のあるとき、古書の入った大箱をオークションで購入した店主のマンリー氏は、多くの本の底にホコリをかぶった古ぼけた1枚のポスターを発見する。それが、かつて全て破棄されたはずの「Keep Calm and Carry On」のオリジナル・ポスターだっだ。同氏はいたく感激し、額に入れて店内に飾ることにした。するとそのポスターに多くの客たちが反応を示すことに気が付き、試しにポスターをカラー・コピーして販売してみると……。

これが現在の「Keep Calm and Carry On」ブームの始まりである。1939年のデザインはすでに著作権の保護期間も終了しており、誰もが自由に手を加えることができるとあって、これをもじったあらゆるデザインが登場。かつて「上から目線」と言われたそのスローガンも、今では、何事にも動じず淡々とやり過ごす「英国人らしさ」の象徴にすらなっているといえるだろう。

 

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