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Fri, 22 November 2024

気軽に楽しめるガイド付き!英国式ハーブ療法の歴史

古代から治療や保存料などさまざまな用途に使われてきたハーブ。現在では医療分野や食用としての利用はもちろん、エッセンシャル・オイルなどのスキンケアや、実用的かつリラックス効果のあるガーデニング用の植物としても幅広く利用されている。今回は、改めて英国における人々のハーブとの関わり方を振り返りつつ、夏バテや美容に効くハーブなど、自然の恵を気軽に楽しめるハーブの使い方を紹介しよう。(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

参考:「 The Herb Almanac: A seasonal guide to medicinal plants」Chelsea Physic Garden 著 Aster、www.nhs.ukwww.bhta.org.ukwww.woodlandherbs.co.ukhttps://sophiatheherbalist.com ほか

ハーブの基本情報

英国におけるハーブ(薬草)とは?

料理の香りづけから、薬品、医療分野まで広く応用される有用植物。英国の植物相は1600種ほどしかないが、その約4分の1が薬用といわれている。食用ハーブとしては1960年代ごろから広く一般家庭にも浸透した。アジア料理やギリシャ料理など食の国際化が進んだことで、近年は英国原産ではないコリアンダーやバジルなども売上が上がってきている。

写真左:バジル、写真右:コリアンダー写真左:バジル、写真右:コリアンダー

漢方薬とは何が違う?

ハーブ療法には、抽出した精油や塗り薬、錠剤やシロップなど、内服薬と外用薬があり、2種以上を組み合わせるのではなく、単独で使用することが一般的。一方、中国で誕生した漢方薬は、植物の葉や茎、根、また鉱物や動物から薬効があるとされる部分をそのまま使用、または砕く・乾燥させる・熱するといった加工作業を加えた生薬を用い、これらを適切な配合に基づいて調合する。

西洋医学とハーブの関係

ハーブ療法は「ハーブを日常生活に取り入れることで、体の免疫力を高めつつ心と体のバランスを整え、それをもって病気に抵抗する」という考え方を下に、軽度の症状に対しての治療が主。国民医療制度(NHS)のウェブサイトでも言及されているように、副作用が出る可能性も大いにあるので正しい使用方法を守ることが何よりも大切だ。

古代から体のバランスを整え、病気を治す方法として発達してきたハーブ療法は、現在病院で受けられる投薬や手術といった体の異常に直接アプローチしていく西洋医学にも多大な貢献してきた。1970年代に柳の樹皮から抽出した成分を使ったアスピリンの合成などがその例で、ハーブの研究により西洋医学が発達してきたといっても過言ではないだろう。

ハーブが英国社会に根付くまで

今でこそさまざまな分野に応用されるハーブの効能。まずは英国でハーブがどのような経緯をたどって、現在の地位に行き着いたかを簡単に紹介しよう。

古代ローマ人によってもたらされた知識英国とのハーブの歴史

ローマ時代に限らず、古代からさまざまな地域で使われてきたハーブ。健康状態を元に戻す目的で使用されてきた、人類史における最も古い薬だ。これまでハーブを意識的に口にしたり、香りを嗅いだことがないという人でも、スパイスの強い料理に含まれているハーブが実は消化を助けていた、とあれば案外身近な存在なのだと理解できるのではないだろうか。

人間がハーブと関わるようになったのは新石器時代。医学分野でハーブを含む植物について言及されたのは紀元前3000年前で、以降古代ギリシャ、古代ローマでハーブに関する情報が積極的に書物に残された。英国へハーブ療法の知識がもたらされたのは紀元50年ごろ。ブリテン島を侵略した古代ローマ人の兵士たちが、病気やけがの治療のためにハーブを持ち込み、その知識はキリスト教の修道院僧によって受け継がれた。しかし、英国では栽培されていないハーブがほとんどだったため、施術を行うヒーラーたちはもともと自生していた植物を研究し利用していたという。

現在も見られる長方形や正方形のシンプルな区画にまとまったガーデン。ハーブが採取しやすいこの効率的なデザインは中世に誕生した現在も見られる長方形や正方形のシンプルな区画にまとまったガーデン。ハーブが採取しやすいこの効率的なデザインは中世に誕生した

2003年にロンドン南部のサザック地区で行なわれたある考古学調査の最中、約2000年前の金属製の容器が発掘された。中は硫黄臭のあるラノリンとでんぷんが含まれた白いクリームまたは軟膏のようなもので、分析によりおそらく現代のファンデーションのような役割を果たしたものだと判明した。同クリームはハーブとは直接関係のないものだが、人類が早くも植物に含まれるでんぷんが美容に良いと理解していたことは特筆に値する。このように、医療と美容は二人三脚で、長い時間をかけて今日まで成長してきたようだ。

生き残りに紆余曲折あった英国のハーブ事情

英国のハーブ史において、二つの大きな出来事があった。一つ目はヘンリー8世(1491〜1547年)の時代。けがをしたときのためにハーブの治療セット一式を持ち、その効能を十分に理解していたヘンリー8世は、ハーブで独自の医薬品を作るほどハーブ医療に傾倒しており、その作り方は今も大英博物館に保管されているほど。同王が1518年に制定した「ハーバリストの憲章」(Herbalist's Charter、Charter of King HenryVIII)は、ハーブの使用に熟練し、知識がある人(ハーバリスト)は誰でもその療法を人々に提供できることを法的に認めた。この憲章は、今日のハーバリストを守る権利の礎になった。

その一方、二つ目の出来事はスコットランドのジェームズ1世(1566〜1625年)の時代。呪術で人に危害を加えると誤解されていた人々を排除する魔女狩りが流行したことによって、治療にハーブを使用している者は誰でも魔女の疑いがかかり捕まえられ、拷問された。このときにハーブの使用法を記した貴重な書物は燃やされてしまい、古代から蓄積されていた膨大な知識も一瞬で失われてしまった。英国のハーブ史は権力者の一時の思惑によって大きく翻弄されたが、民衆の間でハーブは密かに使われ続けていた。

ジェームズ1世の前でひざまづく魔女とされる1597年の版画ジェームズ1世の前でひざまづく魔女とされる1597年の版画

ハーブ療法を専門に行うメディカル・ハーバリストとは?

民間療法として今日まで生き残ってきたハーブ療法だが、英国では国民医療制度(NHS)を通じて薬としてハーブが支給されることはほとんどない。国内の治療で使われている薬が記された「英国国民医薬品集」(BNF)にもハーブについてはわずかに言及されているのみ。それでもなおハーバリストが活躍できるのは、メディカル・ハーバリストとして特定の組織から承認されているからだ。

資格を取得するには、国立医療ハーバリスト研究所または欧州ハーブ伝統医学実践者協会が組織する団体に承認されたハーブ医学の学位レベルのコースを完了する必要があり、それらは大学や臨床トレーニングもあるオンライン・コースで学ぶことができる。資格取得後は病気の原因を調べ、治療するためのアプローチを取り、ほかの治療法や薬と一緒に使用できるハーブ療法を処方する。

気軽に購入できる生活にあふれるハーブ製品

メディカル・ハーバリストでの受診のほかにも、英国にはハーブと気軽に付き合える製品が存在する。医学な監督を必要としない、風邪などの軽度の健康状態に使用できるハーブ製品は、THR(Traditional Herbal Registration)のスキームに申請し、品質や安全性など、使用に必要な基準を満たしていることが証明できれば、店頭で販売が許可される。

また、治療以外の用途でも、保湿効果の高いハーブを使ったスキンケア商品や、口当たりの良いジンなども気軽にハーブが楽しめる製品だ。

THR承認の商品に付くマークTHR承認の商品に付くマーク

日焼けや夏バテ対策に夏に試したいハーブの楽しみ方

夏の暑さが増してきた英国だが、気付けば夏バテの症状であるだるさに悩まされている人が多いのでは。ここでは夏バテの基本的な症状に適した身近なハーブと、生活に取り入れやすい処方を見てみよう。
※効き方には個人差があります。また、妊娠中の方や疾患を持つ方は使用できないハーブがありますのでご注意ください

症状と効果的なハーブ

疲れやすい

精油(エッセンシャル・オイル)
ローズマリー、ペパーミント:元気ややる気を回復する
ローズ:イライラを解消し、ゆったりした気持ちになる

ハーブ・ティー
レモングラス:疲労回復の効果があり、集中力が落ちたときや眠気を感じるときに飲むとリフレッシュできる

その他
ローズマリー、ペパーミント、ローズ:精油を直接嗅ぐ、あるいはアロマ・ポットで芳香浴し、気分転換を

肌の調子が悪い

精油(エッセンシャル・オイル)
ラベンダー:緊張をほぐし、心身をリラックスさせる香りの代表がラベンダー。催眠作用もあり、ストレスが引き起こす肌のトラブルを内面から解消できる
ローズ:リラックス効果と幸福感を高める作用があるため、気分が沈みがちなときに

ハーブ・ティー
ローズマリー:ビタミンたっぷりで、アンチ・エイジング効果も。たくさん日差しを浴びた日は多めに摂取
ローズヒップ:ビタミンの宝庫で美肌効果が期待できるほか、利尿作用があるためむくみに効き、便秘の改善も
ゼラニウム:むくみを解消し、ホルモン・バランスを整える

その他
ゼラニウム:収れん作用があるので、リンパの流れに沿ってマッサージすればむくみが解消される
ゼラニウム、ローズ、ラベンダー:細胞を活性化させ、肌の再生力を高める三つの精油をミックスし、フェイシャル・サウナやアロマ・マッサージを
ティートリー、ミント、ラベンダー:アロマ・バスに活用すると、にきびや日焼けによる炎症を沈める効果がある

疲れているのに眠れない・リラックスしたい

精油(エッセンシャル・オイル)
ラベンダー、カモミール、ローズ:神経の鎮静とリラックス効果により眠りを誘う
セント・ジョーンズ・ワート:抗ストレス効果に優れ、怒りやイライラを静める癒やし効果がある

セント・ジョーンズ・ワートセント・ジョーンズ・ワート

ハーブ・ティー
カモミール、ラベンダー:リラックス効果と導眠効果が高く、なかなか寝付けない人にお勧め
パッション・フラワー、ローズ、リンデン:イライラや過敏になった神経をなだめるため、眠りが浅い人やストレスで眠れなくなる人に

その他
ラベンダー、カモミール、ローズ、セント・ジョーンズ・ワート、ベルガモット:血行を促進して体内の老廃物を効率的に排出し、心も体もリラックスすることで質の良い睡眠が訪れる

手軽にハーブを楽しむセルフ・キュアの方法

アロマテラピー

ハーブの芳香成分を用いて心身をリラックスさせ、健康や美容を促進する療法。また、ハーブの芳香物質を凝縮した精油(エッセンシャル・オイル)を嗅ぐことも有効で、蒸気の吸入で肺から、マッサージで塗れば皮膚から成分が血管に入り全身を巡るため、薬効成分を効率的に活用できる。精油数滴とホホバ・オイルなどのキャリア・オイルを混ぜてバスタブに入れたり、ディフューザーからの蒸気を室内に満たすことでリフレッシュできる。

ハーブ・ティー

植物が持つ有効成分を存分に吸収でき、体の内側から美しくなれるのがハーブ・ティーの良いところ。夏場にお勧めなのはローズヒップとハイビスカスのミックス・ハーブ・ティー。ビタミンCの効果で肌荒れを抑えてくれるほか、利尿作用があるのでむくみの解消にも役立つ。

夏にぴったりのエルダーフラワーとレディース・マントル

写真上:エルダーフラワー、写真下:レディース・マントル写真上:エルダーフラワー、写真下:レディース・マントル

エルダーフラワーとレディース・マントルは、夏を代表するハーブだ。エルダーフラワーはコーディアル・シロップとしてスーパーで売られているが、花はゼリーに風味を加えるために、葉は食べられないが水に浸して窓枠に噴射することで虫除けに。またニキビ予防の美容液としても使えてとにかく万能。レディース・マントルはハーブ・ティーとして飲むことで月経不順やホルモンバランスの乱れを改善してくれる(妊娠または便秘中は飲まないでください)。

ハーブ商品を買うときに使える用語集

Adaptogen:ハーブに広く認められている効能で免疫力、抵抗力を上げる
Anti-inflammatory:体内の炎症や腫れを軽減させる
Antioxidant:抗酸化作用のある
Carminative:胃腸のガスを排出し、お腹のハリを和らげる
Decoction:根・樹皮を煮出して飲む煎じ薬
Diuretic:利尿効果がある
Sedative:睡眠を誘発する

世界のハーブが集まるロンドンで最も古い植物園チェルシー薬草園

チェルシー薬草園の園内。夏期は緑でいっぱいにチェルシー薬草園の園内。夏期は緑でいっぱいに

ロンドン中心部の地下鉄スローン・スクエア駅から徒歩15分の静かな場所にチェルシー薬草園がある。俗世を遮断するかのように高い壁が周囲を囲み、小さな入り口から中入って初めて花が咲き乱れた美しい庭が広がっていることが分かる。この薬草園には、ハーブをはじめとする世界から集められた5000種を超える植物が栽培されており、直接見て、触って、ハーブの世界を体感できるようになっている。

同薬草園は、薬剤師が所属するロンドンの薬局協会、ザ・ワーシップフル・ソサエティ・オブ・アポシカリーズ(The Worshipful Society of Apothecaries)によって1673年に設立された。今でこそ多くの人で行き交う街並みが広がっているチェルシーだが、当時は人口3000人程度のテムズ川沿いの村に過ぎなかった。同薬草園がテムズ川に近いのは偶然ではない。設立当初から、植物を遠方で探し持って帰ってくるプラント・ハンターや、異国の研究者たちと植物・種子交換し、目録を作るインデックス・セミナム(Index Seminum)を行なってきたため、世界中を旅した船が楽に係留できるよう、移動に便利な川のそばに立地を決めたのだ。

甘い香りのするセイヨウナツユキソウ甘い香りのするセイヨウナツユキソウ

ここは長年にわたり、ハーブなど薬用に使える植物を栽培し、その使い方を研究するため、ハーブや薬用、食用の木々、また有毒な植物など、あらゆる植物の可能性や危険性を探る役割を果たしてきた。実際に園内には、葉や実など植物全体に毒を含むブルーベリーによく似た果実が実るベラドンナや、葉に毒を持つルバーブなどが手の届くところに植えられているが、「POISONOUS DO NOT TOUCH」とドクロの絵が描かれた小さな案内板があるだけで特に厳重な囲いもない。まるで自生しているかのような展示の仕方は、なんの変哲もない植物が用法を一つ間違えると我々を苦しめる存在に変わり、最悪の場合死に至らしめるものであることを容易に想像させてくれる。

設立後の長い年月の中で、数年にわたって経営難に陥った時期もあった。それを救ったのは大英博物館の設立に尽力したハンス・スローン卿。1712年、スローン卿がチェルシーの邸宅を購入し、同薬局協会に年間わずか5ポンド(現在の1180ポンド)で庭園を貸し、閉業を免れた経緯がある。現在も、賃貸料はスローン卿の子孫に支払われているそうだ。

夏まっさかりの現在、ボランティアによる無料のガイド・ツアーも行われている。園内にはカフェもあるので、1日のんびり滞在するのがお勧めだ。

Chelsea Physic Garden

66 Royal Hospital Road, London SW3 4HS
Sloane Square駅
Tel: 020 7352 5646 日〜金 11:00-17:00
£12(事前予約必須)
www.chelseaphysicgarden.co.uk
※温室は2023年の夏までクローズ

 

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*本文および情報欄の情報は、掲載当時の情報です。

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