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Fri, 04 September 2026

知っているようで知らない英国のスパークリング・ワイン。

英国のスパークリング・ワイン

近年、英国産スパークリング・ワインは国内外で評価を高め、日本をはじめ世界各地に広がりつつある。雨がちな気候でビールやパブのイメージが強い英国だが、気が付けばフランスのシャンパンにも引けを取らない上質なスパークリング・ワインを生み出す産地へと成長している。今回は、そうした躍進を支えるワイナリーにスポットを当てるとともに、ラベルの読み方や保存方法など、英国ワインを楽しむための基本知識も紹介する。 (文:英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.thetimes.comwww.johnlewispartnership.co.ukほか

気候変動の恩恵

昨年2025年は、英国のワイン業界にとって記録的な年となった。乾燥した春の到来でブドウの新芽が例年より早く展開し、6、7月には英南部で4回もの熱波を記録するほどの猛暑に見舞われた。これにより、英国史上最も早く、成熟度も高いブドウの収穫となった。25年の収穫量は前年比39パーセント増となり、成熟度の指標となる積算温度も過去5年平均を上回るなど、量だけでなく品質にも恵まれた年になった。

こうした変化の背景にあるのが気候変動だ。これまで英国の冷涼で雨の多い気候は、ワイン造りの障壁とされてきた。ところが近年の温暖化によって生育条件が改善し、今や英国南部のワイン造りを後押しする要因となっている。実際、イングランド南部は現在、フランスのシャンパーニュ地方が1970~80年代に享受していたのと近い気候条件になっているとの指摘もある。皮肉なことに、2026年にはシャンパーニュ地方が記録的な猛暑と干ばつに見舞われる一方、同じ温暖化が英国のブドウ栽培には追い風となっている。

フランスの生産者も英国へ

この可能性にいち早く目をつけたのが、他ならぬシャンパンの本場フランスだった。英国南部の白亜質の土壌は、海峡の下を通って仏北部まで連なる地層の一部で、シャンパーニュ地方にも同じ白亜質の地質が広がる。2015年、名門テタンジェは英国のワイン会社などと共同で、英南部ケントに69ヘクタールの土地を取得。そのうち40ヘクタールにシャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエを植え、英国産スパークリング・ワインの生産に乗り出した。

同じく名門ポメリーも、17年にハンプシャーで40ヘクタールの土地を取得。シャンパンの生産者が自ら英国に進出するという動きこそ、英国スパークリング・ワインの可能性を物語っているのではないだろうか。

なぜ赤ワインはまだ少ないのか

イングランドとウェールズのワイン生産量の内訳を見ると、スパークリング・ワインが全体の69パーセントを占め、残るワインのうち赤はわずか14パーセントにとどまる。背景には、英国ワイン業界が歩んできた歴史がある。2000年代初頭、生産者たちはシャンパーニュ品種を安定して完熟させられることに気づき、赤ワイン造りの難しさに挑むよりも、得意とするスパークリング・ワインに力を注ぐ道を選んだ。もっとも近年は、赤ワイン造りに取り組む生産者も現れている。

ぶどう

英国の人気ワイナリー8選

英国各地のワイナリーの中から、実力と個性を兼ね備えた8社を厳選した。ここで紹介したワインは、どれも現地の直売所やオンラインで購入できる。自分好みの一本を見つけてみてはいかがだろうか。

1. Nyetimber ナイティンバー

Nyetimber 1086 2014
£150/750ml
https://nyetimber.com

1986年、米国から移住したモス夫妻がウェスト・サセックスのナイティンバー地所を購入し、88年からシャンパーニュ品種を植樹。当時は英国でこれらの品種が完熟するとは考えられず、農業省の専門家から「ブドウではなくリンゴを植えるべき」と助言されたという。夫妻はその常識を覆し、92年に発表した最初のブラン・ド・ブランが97年に国際コンクールで金賞を受賞。英国スパークリング・ワインを世界に知らしめる先駆けとなった。写真の「1086」は、ナイティンバー地所が1086年の土地台帳「ドゥームズデイ・ブック」に記録された年にちなむ最高峰の1本で、特に優れた年のブドウだけを使って造られる。リンゴやパイナップルを思わせるジューシーな酸味にナッツやビスケットの熟成香が重なり、長い余韻が楽しめる。

2. Langham Wine Estate ランガム・ワイン・エステート

Langham Wine Corallian Classic Cuvée NV
£34.95/750ml
https://langhamwine.co.uk

農家の息子として育ったジャスティン・ランガムが、農業以外の事業を模索し、父の趣味でもあったワイン造りを志したことから始まった。世界のワイン産地を巡り、ブドウ栽培を学んだ後、2009年にドーセットの畑にシャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエを植樹。コーラリアン層に由来する石灰岩と、フリント(火打ち石)が混じる土壌が広がる南向きの34ヘクタールの畑で、低介入の伝統的な製法にこだわる。2020年には国際ワイン&スピリッツ・コンペティション(IWSC)で「Sparkling Wine Producer of the Year」を受賞し、家族経営ながら英国屈指の生産者として知られる。写真の「コーラリアン」は、畑の地質にちなんで名付けられたシャルドネ主体の1本で、樽熟成による繊細なナッツ香とミネラル感が特徴。海風を感じさせる引き締まった塩味とシャープな酸味が融合する。

3. Gusbourne ガスボーン

Gusbourn Sparkling Rosé Twenty Twenty
£55 / 750ml
https://gusbourne.com

創業者のアンドリュー・ウィーバーは、南アフリカ出身の整形外科医。1991年のFAカップ決勝で負傷したサッカー選手ポール・ガスコインの膝を治療したことでも知られる。ワイナリーを持つという長年の夢を実現するため、2004年に1410年まで記録を遡る歴史ある地所ガスボーンにブドウを植え、ワイン造りに乗り出した。英国のスパークリング・ワインではノン・ヴィンテージが一般的なのに対し、ガスボーンは自社畑のブドウだけを使い、全量をヴィンテージ・ワインとして造る。ケントとウェスト・サセックス、それぞれの土壌の個性を生かすことにもこだわっている。写真の「スパークリング・ロゼ」は、白中心のラインナップの中でも評価の高い一本で、繊細なピンク色と赤い果実のアロマが特徴の人気銘柄。

4. Balfour バルフォア

Balfour Blanc de Blancs 2018 マグナム
£120 / 1500ml
https://balfourwinery.com

きっかけは、夫妻のお気に入りだったピンク・シャンパン「ビルカール・サルモン」への憧れだった。2002年、バルフォア=リン夫妻はケントのハッシュ・ヒースの敷地に、わずか5エーカーの試験的なブドウ畑を造った。「売れなければ、自分たちで飲めばいい」という気軽な気持ちだったというが、04年収穫のブリュット・ロゼが07年のインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)で金賞とトロフィーを獲得し、一躍、英国スパークリング・ワインの新星として注目を集めた。同ワインはその後、ブリティッシュ・エアウェイズのファースト・クラスで提供される初の英国スパークリング・ワインとなった。写真の1本は、「デカンター」誌の最高栄誉「Best in Show」を受賞した、シャルドネ100パーセントの複雑な味わいが特徴。

5. Harrow & Hope ハロー・アンド・ホープ

Harrow & Hope Brut Reserve NV
£34 / 750ml
https://harrowandhope.com

英国大手ワイン通販「レイスウェイツ」の創業者の息子、ヘンリー・レイスウェイトが2010年に設立したワイナリー。仏ボルドーとオーストラリアで経験を積んだ後、英国に戻り、ロンドンにほど近いテムズ川沿いのチルターン・ヒルズに理想的な土地を見つけた。シャンパーニュ品種に適した石灰質土壌にはフリントが多く、耕作は困難を極めたといい、整地用の農機具「ハロー」を2台壊したことから、「ハロー・アンド・ホープ(希望)」という名前が生まれたという。2019年には英国ワイン業界団体WineGBの「Winery of the Year」を受賞。写真の「ブリュット・リザーヴNV」は同社の看板商品で、クリーミーな口当たりに、熟した風味と爽やかさ、複雑さが調和した、長い余韻が特徴。

6. Rathfinny ラスフィニー

Rathfinny 2020 Classic Cuvée
£38 / 750ml
https://rathfinnyestate.com

創業のきっかけは、ある夜の余興だったという。ヘッジファンド運用者として成功していたマーク・ドライバーは、友人10人とシャンパン6本、英国産スパークリング・ワイン6本をブラインド・テイスティングで飲み比べた。結果は英国産の圧勝。この体験から、2010年、妻サラとともにサセックスにある600エーカーの農地を購入し、ワイン造りに乗り出した。ドライバーは栽培学を学び直し、広大な単一畑でブドウ栽培から醸造まで手掛ける、英国最大級の単一畑ワイナリーへと育て上げた。2023年にはB Corp認証も取得。写真の「クラシック・キュヴェ」は、同社を代表する1本。

7. Ridgeview リッジヴュー

Ridgeview Bloomsbury NV
£35 / 750ml
https://www.ridgeview.co.uk

元ソフトウェア起業家のマイク・ロバーツが、妻クリスティーンとともにサセックスのディッチリングでワイン造りを始めたのは1990年代半ば。当時、英国ではドイツ系品種が主流だったが、サウス・ダウンズの地下にシャンパーニュ地方と同じ白亜質の地層が続くことに着目し、シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエに賭けた。当時、英国産ワインは「English」というだけで敬遠される風潮があり、同社は長年、ラベルにその文字を目立たせなかったという。転機となったのが2010年、「デカンター」誌のワールド・ワイン・アワードでトロフィーを受賞したことだった。ロバーツは「英国ワインの父」と呼ばれ、2011年に大英帝国勲章(MBE)を受章。写真の「ブルームズベリー」はシャルドネ主体の看板ブレンドだ。

8. Breaky Bottom ブレイキー・ボトム

Breaky Bottom 2010 Seyval Blanc Cuvée Koizumi Yakumo
£84 / 750ml
www.breakybottom.co.uk

1974年、英国のワイン造りがまだ黎明期だったころ、ピーター・ホールがイースト・サセックスの谷間にブドウを植えたのが始まり。現在ではシャルドネやピノ・ノワールなども栽培するが、看板品種はセイヴァル・ブラン。完熟しても酸味を保つ特性に可能性を見いだし、95年にはセイヴァル・ブラン100パーセントのスパークリング・ワインを造り始めた。「コイズミ・ヤクモ」の名を冠した2010年のヴィンテージは、ピーター・ホールの高祖叔父にあたるラフカディオ・ハーン(小泉八雲)にちなんだもの。セイヴァル・ブラン100パーセントで、長期の瓶内熟成によって、柑橘や梨、焼いた洋菓子を思わせる香りと、鮮やかな酸味が重なる。2014年にはインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)で金賞を受賞した。

いまさら聞けないワインの6つの基本

店頭やオンライン・ショップ上で、ワインの種類の多さに戸惑ってしまう人も多いはず。味の好みは人それぞれだとしても、知っておいたら少しは役に立つかもしれない六つの豆知識をご紹介。

1「English」と「British」は 何が違う

ブドウ畑

「English Wine」は、イングランドで収穫したブドウを使って造られたワイン。一方、「British Wine」は一般に、海外から輸入した濃縮ブドウ果汁などを英国で発酵させて造るワインを指す。両者は原料が異なるため、ラベルを見る際には区別しておきたい。なお、英国には産地や原料などを定めたPDO(保護原産地呼称)やPGI(保護地理的表示)の制度があり、「English」「Welsh」などの名称も保護されている。

2Brutは辛口のこと?

ブドウ畑

「Brut」(ブリュット)「Extra Dry」「Demi-Sec 」(ドゥミ・セック)などは、スパークリング・ワインに含まれる残糖量の目安。Brutは辛口、Extra Dryは名前からは意外だがそれより甘く、Demi-Secはさらに甘い。英国産スパークリング・ワインではBrutが主流で、食事に合わせやすいのも特徴。すっきりした辛口が好みならBrut、少し甘みのある味わいを試したければExtra Dryなど、ラベルの表示を手掛かりに選んでみよう。

3「NV」はたいしたことないのか

ワイン樽の貯蔵庫

ラベルに「NV」(Non-Vintage)とあるのは、質の低いワインという意味ではない。複数の収穫年のワインをブレンドし、生産者が目指す安定した味わいを毎年再現するためのものだ。一方、年号が記載された「ヴィンテージ」は、その年に収穫したブドウの個性を楽しむワイン。ヴィンテージだから必ずしも上質というわけではなく、NVは生産者の基本の味を知りたいとき、ヴィンテージはその年ならではの味わいを楽しみたいときに選ぶとよい。

4「Blanc de Blancs」って白ワイン?

ブドウ畑に置かれた摘まれたばかりのブドウ

「Blanc de Blancs」(ブラン・ド・ブラン)」はフランス語で「白の中の白」を意味し、白ブドウだけで造ったスパークリング・ワインを指す。英国ではシャルドネ100パーセントのものが多い。一方、「Blanc de Noirs」(ブラン・ド・ノワール)は黒ブドウだけを使ったもの。ピノ・ノワールやピノ・ムニエなど黒ブドウを使っても、果皮から果汁を早く分離することで白いワインに仕上げる。ロゼは黒ブドウの色素などを利用して淡いピンク色にしたものだ。

5「Cuvée」とは何か?

白いシャツに黒ベストを着た男性がグラスに白ワインを注ぐ様子

ワインのラベルでよく見かける「Cuvée 」(キュヴェ)は、フランス語で、もともとは醸造したワインなどを指す言葉。現在は、生産者が品種や畑、収穫年の組み合わせなど、特定のワインを仕上げるために選んだブレンドや、そのワインそのものを指すなど、使われ方はさまざまだ。「最高級」という意味ではなく、生産者が独自に名付けた商品名に使われることも多い。つまり「Cuvée」と書いてあっても、それだけで高級品というわけではない。

6スプーンを入れると、泡は抜けない?

白いシャツに黒ベストを着た男性がグラスに白ワインを注ぐ様子

開栓したスパークリング・ワインの瓶口に、金属製のスプーンの柄を差し込んで冷蔵庫に入れると、泡が抜けにくい。そんな昔ながらのおまじないがある。欧州では広く知られた方法だが、実験ではスプーンによる効果は確認されていない。泡を保つには、瓶内の二酸化炭素が逃げないよう専用のストッパーでしっかり栓をし、冷蔵庫で冷やすのが確実だ。とはいえ、今もスプーンを使う人がいるのは、それだけ長く親しまれてきた方法だからともいえる。

 

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