ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Tue, 19 November 2024
ブレア首相と愉快な仲間たち

近代議会制度発祥の地として知られる英国。その長い伝統を受け継ぎながら、現代の英国政治の舵取りを行うのがブレア内閣メンバーの面々だ。今回の特集では、内閣閣僚の中から選りすぐりの11名を選出。個性豊かな彼らの横顔を追いながら、国会中継の楽しみ方もご紹介する。議会政治の本場英国で、政治を深く楽しく勉強しよう。

Tony Blair  君こそスターだ!
トニー・ブレア首相  52歳 オックスフォード大学出身
Tonyご存知英国の第73代首相。まだ若々しさを十分に残していた41歳の時に労働党党首に任命され、その3年後に政権を奪取。以来、9年間にわたって首相として君臨している。彼の特徴として、「神がかった」という表現が似合うほどのパフォーマンスの上手さが挙げられる。日本の政治家ではめったにお目にかかれない、凛々りりしくスマートないでたち。上品な言葉遣いと流暢な話し方に加えて、敵陣さえ笑いに誘う抜群のユーモアのセンス。そして何よりも、政策を訴える際に眩いばかりにキラキラと輝く両目。思わずうっとりして彼が何を言っても信じてしまいそうになる。
強力なリーダーシップで急進的な改革を遂行したため党内に多くの敵を作ったが、それでも彼はへこたれない。名門オックスフォード大学で過ごした学生時代は「Ugly Rumor(醜い噂)」という名のロック・バンドを組んで歌い叫んでいたという彼。50歳を過ぎた今でも、心の中はロックが教えた反抗心と純粋な思いで溢れているのだ。

Gordon Brown  英国経済を支える妖怪ぬりかべ
ゴードン・ブラウン財相  55歳 エディンバラ大学卒
Gordon Brown近年の英国経済の安定は、ブラウンの功績による部分が大きい。国債の発行を制限する緊縮財政で財政管理し、公定歩合を設定する権限を中央銀行に与えて市場の信頼を勝ち得た。さらにはアフリカ諸国への援助金捻出に奔走するなど、政治的貢献も果たしているのに、妖怪ぬりかべみたいなダミ声を出すものだから陰湿なイメージがまとわりついてヒーローになり切れない。
ブレアがまだ新米議員だった頃、先輩として指導を重ねていたらメキメキと力をつけてブレアにキャリアを追い越されてしまった。この時ブレアは、後にブラウンに首相の座を譲るという「密約」を交わしたと噂されており、そのブレアが今季限りで退任する考えを露わにしていることから2人の一挙手一投足が注目されているが、なんか揉めそうな臭いがプンプン。結局ブラウンは、ブレアの輝かしい功績とキャラに隠れてしまった影の男として歴史に名を刻むような気がする。そんな「縁の下の力持ち」みたいな役割がよく似合う男だ。

John Prescott  政界を騒がす海の男
ジョン・プレスコット副首相  67歳 ハル大学卒
John Prescottメディアからは「ブルドッグみたい」と形容される政界のお騒がせ男、ジョン・プレスコット。学生時代は落第したこともあり、政治家になる前は船乗りだったという異色の経歴を持つ。議員デビュー当時から破天荒な言動で物議を醸していたが、高齢になってもそのはみ出しぶりは衰えず、今でも国会の壇上に上れば文法一切無視の不明瞭な演説を行って、周りからの嘲笑の的となっている。ブレア首相が話している間も平気で居眠りこき、抗議目的で卵を投げつけた市民をグーで殴りつけて逆襲したこともある。こんな人が副首相なんていう肩書きを持てる英国の政治の世界って本当にすごい。そんな荒らくれ者のイメージばかりが強調されるが、実は分裂しがちな労働党を上手にまとめる親分として厚い信頼が寄せられているプレスコット。人災を起こすほど荒れたり、時には温かく党員を包み込んだり、ともかくとっても器の大きな海の男なのだ。

Tessa Jowell  夫ポイ捨てのオリンピック大臣
テッサ・ジョエル文化・メディア・スポーツ相 
58歳 アバディーン大学卒
Tessa今、最も注目を浴びる女性政治家。イタリアのベルルスコーニ元首相の汚職事件に夫が関係していたとの報道で、一斉に脚光を浴びた。政治家としての立場も危うくなり「苦渋の選択」の末に、彼女は結局その夫と別れることを選んでひとまず解決。ああ、女にとって夫の存在ってそんなものか、と英国中の既婚男性に深い溜息をつかせた一件であった。メディアも汚職問題にかこつけて報道していたが、実際のところこの夫婦の愛憎劇の方に興味津々だったのだ。本業では2012年に開催されるオリンピックの開催地としてロンドンが選ばれたことで、オリンピック大臣にも任命されている。しかし競技場建設の深刻な遅れなどの問題が再三にわたって指摘されており、開催日が近付くにつれて今後猛烈に叩かれること間違いなし。その時に夫が再び現れて彼女を支える、なんて話も興味がある。

Ruth Kelly  しごきに耐える新入生
ルース・ケリー教育・職業技能相 
37歳 オックスフォード大学ほか卒
Ruth Kelly1997年に当選してからスピード出世を果たし、2004年暮れに教育相に任命され女性としては最年少で入閣を果たした。しかしその後まもなくして国内の学校に性犯罪の前科を持つ者が職員として多数採用されていた事実が発覚し、事態は急展開。憧れの内閣デビューを飾った途端に性犯罪者の対応に追われた。ここぞとばかりに野党やメディアは政府の管理責任を激しく追及。田舎臭さが漂うもっこりした髪に、バリトン並みの低い声を持つがゆえ不器用に映る彼女をここぞとばかりに叩きに出た。しかし彼女は毅然とした態度で記者会見に臨み、国民の理解を得ることに成功する。市民に卵を投げつけられても、ブレア首相が推進する教育改革で大忙しの毎日でも文句言わずにひたすら働く彼女。どんなにしごかれても明日へ向かって生きていく、そんな前向きな新入生を思い起こさせる。

Jack Straw  冷徹なカマキリ男
ジャック・ストロー外相  59歳 リーズ大学卒
Jack Strawインテリじみた話し方が少し気になる男。内相時代に犯罪者に対する厳重な取り締まりを掲げ、それまでの犯罪に甘い労働党、というイメージをうっちゃった。細身の体ながらも強気で威張っているストローだが、何せ明晰な頭脳を持つがゆえに市民の間ではすこぶる評判が良いという。イラク情勢やイランの核開発問題など、英国を悩ます中東問題が議題に上ると、ガサガサと昆虫みたいにしゃしゃり出てきては、記者会見上で顔の表情ひとつ崩さず対応する。それだけに、どうしても冷徹なイメージが付きまといやすいことも確かである。

John Reid  マッチョな僧兵
ジョン・リード国防相  58歳 スターリング大学卒
John Reid剛毅な印象を与える北部独特の訛りと睨みを利かせた顔はやくざである。かつては共産党員だったこともあるほど豊富な経験を持つ彼には、保健相という意外な職歴がある。同ポストに任命された瞬間「保健相なんてやってられるか」と叫んだという逸話が残っており、きな臭い今のポストの方が似合うことは十分自覚しているのだろう。戦闘的なイメージばかりが際立つが、実は経済史の分野での博士号を持っている知性派。知識と風格、そしてファイティング・スピリットの3拍子揃った僧兵のような彼に集まる信頼は厚い。


Margaret Beckett  政界のお局様
マーガレット・ベケット環境・食糧・農村地域相 
63歳 マンチェスター大学卒
Margaret Beckett雅で人畜無害なオバサマに見えて、実はかなりやり手の政界大ベテラン。かつてブレアそしてプレスコットと共に労働党党首の座を争ったこともあり、割と権力志向の強いタイプなのかもしれない。また大学時代には鉱石から金属を取り出して精製する過程を調べる冶金学者としての資格も取得しているという、根っからの地学オタクでもある。エネルギー源不足に悩む英国で再燃している原子力発電利用について論じる際に度々メディアに登場し、是非を問わない玉虫色の発言に終始してはお茶を濁している。

Ian MacCartney  やらされ学級委員長
イアン・マッカートニー無任所大臣、党委員長 
55歳 高校中退
Ian MacCartneyとっておきのいじめられキャラ。155センチの低身長に顔の面積の約3分の1を占める大きなメガネ。何を話しても必死で言い訳しているように聞こえる口調。挙げ句の果てに「無任所」なんて曖昧で中途半端な肩書きを持つ彼、もう一つのポストである労働党委員長なんて、他に誰もいないから無理やりやらされているという構図がはっきりと見て取れる。が、15歳でストライキを指揮したという実績を持つ彼を侮ってはいけない。決して人々の信頼を裏切らない彼がいるからこそ、現内閣を支援するという議員も多数いるのだ。

Patricia Hewitt  白衣の堕天使
パトリシア・ヒューイット保健相 
57歳 ケンブリッジ大学ほか卒
Patricia Hewittかつて家庭生活を優先したいがために議員デビューを遅らせたことがあるという、オヤジたちが泣いて喜びそうなエピソードを持つヒューイット。さらに保健相とくれば柔和なイメージばかりが膨らむが、実は札付きの剛腕フェミニストでもある。男性の部下をクビにして無能な女性を雇い、男女差別法に触れると訴えられて敗訴したこともあるくらいだ。また国家破壊活動に従事しているとの疑いで国内の諜報機関MI5に追跡されたこともある。現政権では吹けばほこりが飛び散る国家医療制度(NHS)について弾劾追及される毎日を過ごしている。

Charles Clarke  舌鋒鋭い白ひげ仙人
チャールズ・クラーク内相  59歳 リーズ大学卒
Jack Straw仙人のような白い口ひげが特徴の舌鋒家。テロ問題で揺れる英国の治安対策では、その強気な姿勢が功を奏している。というのも、2005年の同時多発テロ発生以降、IDカード導入や反テロ法成立など国家の管理強化に危機感を強めるリベラル知識人が数多くいる中、彼らを「害毒」呼ばわりして蹴散らしているからだ。かと思えば、国外追放の対象である外国人犯罪者が内務省の不手際で大量に釈放されていたことが判明し、各方面から糾弾されると結構しどろもどろだった彼。所詮は空威張りしていただけなのかもしれない。

もっと知りたい内閣制度  ここまで学べば優等生

内閣の閣議
首相の下で政府の方針を決定する役割を司る閣僚。ここで紹介したメンバー含め全部で23のポストがあり、これに3人の大臣を加えた合計26名が毎週木曜日に閣議を行う。閣議には国会議事堂近くのダウニング・ストリート10番地に位置する首相官邸の閣議室が150年間にわたって利用されており、防音設備は万全。首相が暖炉を背にした中央席に座り、残りの閣僚は序列に従って座る席順が決められているという。

影の内閣
政府の内閣に対して野党幹部で構成された組織を「影の内閣」と呼ぶ。通常は内閣の閣僚ポストそれぞれに対して影の内閣では「スポークスマン」という肩書きで仕事が割り当てられており、担当となる分野における内閣閣僚の仕事を監視し、主に批判するのが役割。つまり、内閣の外相に対して影の内閣には「外務省スポークスマン」がいることになる。野党が政権を奪った際には、彼らに閣僚ポストが与えられる場合が多い。

立法過程での役割
議会での法案審議の優先順位を決めるのも内閣の大事な仕事のひとつ。自党が選挙の際に公布したマニフェストを尊重しながら判断し、最終的には政府の各大臣や各省庁職員が法案を作成、下院そして上院で法案審議が行われることになる。ちなみに、法案作成の準備のため作成する提案書が「グリーン・ペーパー」、立法化を目指してもう一歩踏み込んだ内容の意見書が「ホワイト・ペーパー」と呼ばれている。


議会政治の醍醐味が味わえる!
「クエスチョン・タイム」実況中継
Prime Minister's Question Time
閣僚の顔と名前を覚えたら、今度はいよいよ上級編。より深く英国政治の醍醐味を知るため、「クエスチョン・タイム」との通称を持つ首相への質疑応答を「観戦」してみよう。毎週水曜日正午から30分間行われるこの論戦では、野党党首やその他の議員と首相との間で白熱した応酬が繰り広げられる。英国議会ならではの独特の慣例も垣間見られる「クエスチョン・タイム」の一場面をここで解説!
Question Time


    論戦の始まり

首相への質疑応答は通常「首相、本日の業務はどのようなものですか」という問いかけを意味する「第1の質問です、議長」という一言で始まる。これに対して首相は「今朝は閣僚たちとミーティングを行いました。国会での質疑応答の後、またさらなるミーティングを行う予定です」と答えるのが慣例となっている。これは通常の国会の質疑応答では「議題となる最初の質問に関連する質問のみ許される」というルールがあるため。最初に「首相の業務」について質問し本題と設定することで、続いて質問する側にとってはあらゆる分野について首相を問いただすことが可能になるのだ。穏やかに見える会話のやりとりだが、実は後の壮絶な舌戦へと導くための伏線を張ったゴングの合図になっている。

    質問の仕方

質問者は3日前までに規定用紙に名前を記入し、投票箱に提出しなければならないことになっているが、当日の飛び込み質問も許される。このため議長からの指名を得ようと、各質問の合間には平議員たちがあちらこちらで起立してアピールしている。テレビなどで見ると絶えず立ったり座ったりしている人たちを見かけるのはそのせい。ちなみに、これら平議員が首相への質問の機会を与えられるのは年に1回あるかないか。野党第一党の保守党党首は1つのセッションにつき6回、第二党の自民党党首は2回まで質問する権利が認められている。

    質問への回答

質問者が首相に対して質問の内容を予告することはほとんどない。つまり、首相には矢継ぎ早に投げかけられる様々な分野の質問に対して間髪入れずに答えるという、神業的な能力が要求される。当然、周到な準備を行う必要があり、「鉄の女」として有名だったマーガレット・サッチャー元首相は話し合われるであろうテーマの予習のために毎週8時間を費やしたといわれる。ブレア首相を見ても細かく付箋が貼られた分厚い資料を手元に置いて、具体的な数字データを挙げながら見事に回答していくのがわかるはず。

    場外では

首相や質問者の発言に対して、周りの議員らはブーイング、喝采などで議場を盛り立てる。発言者が織り交ぜるユーモアに対して笑いが起きることもしばしば。またよく観察すると私語に興じていたり眠っている議員もいる。
 
 

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