ウェルシュ・ケーキ
Welsh Cakes
英国人の家庭で紅茶をごちそうになるとき、お茶請けにビスケットを出してもらうことがよくあります。たいてい、元は別のビスケットが入っていたと思われる使い込まれた缶から、チョコレート付きのダイジェスティブ・ビスケットやチョコレート・クリームが挟まったバーボン・ビスケットなどが出てきます。
ところが、10年ほど前、ある書籍のための取材で庭を見せてもらいに伺ったお宅で缶から出てきたのは、ビスケットではなく、パンケーキを小さくしたような食べ物でした。それは、干しぶどうがところどころに散りばめられて両面はこんがりきつね色。「ウェルシュ・ケーキ」という名前だと教えてもらいましたが、ほろほろとした歯触りが、ケーキというよりはビスケットとスコーンを掛け合わせたような感じでした。
取材先の奥様が手作りしてくれたそのお菓子は、周りに砂糖がかなりしっかりまぶされていたものの、甘過ぎるというほどではなく、スパイスがほんのり利いていて、ミルク・ティーによく合います。そのせいか、初めて(それも取材で!) 伺ったお宅だというのにも関わらず、ついつい2つ、3つと手を伸ばしてしまいました。
お皿に並べられていたウェルシュ・ケーキを我々取材チームがあまりにも勢いよく食べるので、奥様はキッチンに缶を取りに戻りました。そして、「もっとどうぞ」と、多分、客に出すのはやめておこうと缶の中に残してあったと思われる、ややお焦げのあるものまで出してくれたのです。
さて、スコーンを薄くしたようにも見えるこのウェルシュ・ケーキは、名前の通り、ウェールズの伝統的なお菓子。正確な起源は不明ですが、19世紀の料理書にはレシピが掲載されています。「グリドル」と呼ばれる鉄板で焼いて作られますが、歴史をさかのぼれば、暖をとりつつ煮炊きをするかまどのそばに置いた平らな石(Bakestone)の上で調理されていたと言われています。そのため、ウェールズではこのお菓子自体を「ベイクストーン」と呼ぶ人もいるそうです。
ところで突然ですが、当コラムでは毎回、レシピをご紹介していますが、皆さん、実際に試してくださっているでしょうか。できるだけ簡単に作れるよう、市販品を利用できる部分はそれを使い、また砂糖の分量などは日本人の口に合うようにかなり調整しています。
掲載用のレシピを確定するまでには同じものを(分量を変えて)何度も作ります。毎回、結構な量のものができるのですが、驚いたのは、今回の試食品は作るそばからみるみるなくなっていったこと。そういえばカーディフに住む友人が「ホームメードのウェルシュ・ケーキは、焼いた翌日まで残っていることはあり得ない」と言っていたのを思い出しました。どうやらこれ、「口福度」が相当高いお菓子と言えそうです。
ウェルシュ・ケーキ(約15個分)
材料
- セルフ・レイジング・フラワー ... 200g
- バター ... 100g
- 卵 ... 1個
- カスター・シュガー ... 60g+仕上げにまぶす分
- ベーキング・パウダー ... 小さじ1/2
- カランツ ... 50g
- ミックス・スパイス ... 小さじ1/2
- 牛乳 ... 少々(必要に応じて)
作り方
- 振るったセルフ・レイジング・フラワーにベーキング・パウダーを加え、更にミックス・スパイスを追加して混ぜる。
- サイコロ状に切ったバターを加え、手で混ぜ合わせる。
- ❷にカスター・シュガーとカランツを加える。
- ❸に溶き卵を加えて混ぜ合わせる。
- 生地をこねて、固すぎるようであれば牛乳を少し加える。
- 打ち粉をしたまな板の上に❺を置き、約7mmの厚さに伸ばす。
- 直径7cm前後の型で生地を抜く。
- 熱したフライパンに載せ、弱火で約3〜5分ずつ両面を焼く。
- 焼き上がった上からカスター・シュガーを振りかける。
memo
焼きたてでも、冷めてからでも、どちらもとてもおいしいです。半分に切って、ジャムを塗るという食べ方もあるそうです。