ブレッド・アンド・バター・プディング
Bread and Butter Pudding
このコラムを始めてから、英国人の友人たちに「英国のトラディショナル・フードで好きなものは?」と聞いて回っています。かなりの割合で登場するのが「ブレッド・アンド・バター・プディング」。サンデー・ロースト後のデザートにお母さんが作ってくれたとか、学校給食で食べた、という思い出のある人が多いようです。
名前の通り、これはバターを塗った食パンを使ったデザートです。日が経って少し固くなってしまったパン。それを半分または4分の1に切り、耐熱皿に並べて干しぶどうを散らし、上から卵と砂糖、そしてミルクを混ぜたカスタード液をかけてオーブンで焼きます。あつあつをそのままでも、さらにカスタード・ソースをかけていただいてもおいしい、ほっこりした気分になる「コンフォート・フード」です。
このデザートだけでなく、以前ご紹介したサマー・プディングやアップル・シャーロットなど、英国には古くなった食パンを使ったレシピがいくつもあります。ブレッド・アンド・バター・プディングのレシピは、1727年に出版されたイライザ・スミスの料理書「The Compleat Housewife or Accomplish'd Gentlewoman's Companion」が初出と言われているので、既に300年近い歴史があります。当時のパンは今以上に固くなるのも早かっただろうと想像すると、こうした「パンのリサイクル」レシピが数々生まれたというのも当然なのかもしれません。
ところで、現在の英国の食パンはというと……。スーパーで売られているのは日本の食パンに比べて量が3倍ほどもあるのに驚いた方も多いのではないでしょうか。メーカー毎に多少のバラツキはありますが、数えてみると、ミディアムの厚さのもので18枚前後あります。こんなに多いと食べきる前にカビが生えてしまうかも、と心配になりますが、この国の食パンは賞味期限が長く、カビが生えることはめったにありません。また数日経っても固くならずにふわふわしています。値段は一袋1~1.5ポンド程度とかなり安価。いいことづくめのようですが、実はこれには理由があるのです。
それは1961年に生み出されたチョーリーウッド法と呼ばれる製パン法。この製法では従来のように時間をかけて生地を発酵させるのではなく、高速回転ミキサーと多量のイースト、酸化剤などを使い、短時間で大量の食パンを作り出すことができます。1965年以降はこの製法で作られたパンが主流を占め、現在では市販されている食パンの約80%がこの製法によるものです。
ただ、安価すぎるのが災いしてか、英国では毎日2400 万枚の食パンが捨てられているという調査結果が昨年発表されました。それを受けて「Love Food Hate Waste」というチャリティー団体は「Use Your Loaf」というキャンペーンを実施。もちろんブレッド・アンド・バター・プディングのレシピも紹介されていました。
簡単ブレッド・アンド・バター・プディング(4~6人分)
材料
- 食パン(少し日が経ったもの) ... 8~10枚
- サルタナ(またはレーズン) ... 60g
- バター ... 約50g
- 卵 ... 3個
- 牛乳 ... 400ml
- ダブル・クリーム ... 50ml
- カスター・シュガー ... 60g
- デメララ・シュガー ... 適量
- シナモン ... 小さじ1/4
作り方
- 耳を切り落とした食パンの片面にバターを塗り、対角線上に切って三角形にする(お好みでさらに半分に切っても)。
- 耐熱皿にバターを塗り、❶を順番に並べる(バターを塗った面を上にして)。
- ❷の上からサルタナを全体に散らす。
- ボウルに卵を割り入れ、かき混ぜる。
- ❹にカスター・シュガー、牛乳、ダブル・クリームを入れてよく混ぜる。
- ❸の上から❺をかける。
- ❻の上から全体にシナモンとデメララ・シュガーを振りかけて30分ほど置き、カスタード液をパンにしみ込ませる。
- 180℃に予熱したオーブンで約30分焼く。表面がこんがりきつね色になったら出来上がり。
memo
最近では食パンの代わりにブリオッシュを使ったり、バターだけでなくマーマレードを塗ったりした「モダン」なブレッド・アンド・バター・プディングのレシピがたくさん登場。この伝統的デザートが見直されてきているようです。