キュウリのサンドウィッチ
Cucumber Sandwich
前回ご紹介した「クリーム・ティー」に出てきたスコーンは、もちろんアフタヌーン・ティーに欠かせない一品です。これまで何度もアフタヌーン・ティーを取材しましたが、たいていどこでもスコーンは特別扱い。というのも、焼きたてをサーブするために注文を受けてからオーブンに入れるため。お茶やお菓子がテーブルにそろってしばらく経った後、うやうやしくスコーンが登場する、ということがよくありました。そんな花形スコーンに比べるとかなり地味。時には食べずにお皿に残されたまま……という寂しい運命を請け負ってしまったアフタヌーン・ティーの脇役的存在、それが「キュウリのサンドウィッチ」です。
現代ではともすると「なんでキュウリだけの質素な中身のサンドウィッチが、ポッシュなアフタヌーン・ティーのメンバーに入っているの?」と言われそうです。あるいはどこからか「せめてハムかマヨネーズとあえたツナと一緒じゃないと」というため息さえ聞こえかねません。
とはいえ、実はこのサンドウィッチこそが、かつて英国上流階級の人々の間で最ももてはやされたメニューだったのです。
アフタヌーン・ティーは1840年代に第7代ベッドフォード公爵の夫人であるアンナ・マリアが始めたと言われています。遅い時間に始まるディナーまで空腹にもちこたえられないからと、午後4~6時ごろに、紅茶とともに軽食や小さなケーキを食べながら社交をしたというもの。
この習慣が広がるに従い、高級ホテルなどでもアフタヌーン・ティーを提供するようになり、ビクトリア時代の貴族の間では、その際、キュウリのサンドイッチが欠かせない一品となりました。
約96%が水分という栄養価の低いキュウリをありがたがって食べるのは裕福な証(労働者階級は肉など高カロリーのものを食す必要がある)だとか、温室栽培や輸入もののキュウリは高価だったとか、上流階級の食べ物とされる理由は諸説あります。
そういえば、コリン・ファースとルパート・エベレットが共演したオスカー・ワイルド原作「The Importance of Being Earnest」の同名映画(邦題「アーネスト式プロポーズ」)に、この食べ物が登場します。映画は19世紀の英国上流社会が舞台。アーネストという名の架空の人物を巡るロマンティック・コメディーです。その中で、ジュディ・デンチ演じるブラックネル夫人のためにわざわざ準備させたキュウリのサンドウィッチを、ルパート・エべレット扮するアルジャーノンが食べ尽くしてしまうという場面がありました。映画ではちらっと映るだけですが、高価そうな銀製トレイに載ったそれは(ルパートがエレガントに食べていたからかもしれませんが!)確かに特別な食べ物、という感じがしていましたよ。
キュウリのサンドウィッチの作り方(3人分)
材料
- キュウリ ... 1/2本
- 食パン ... 6枚
- バター(室温に戻したもの) ... 適量
- 塩・胡椒 ... 少々
作り方
- キュウリをできるだけ薄くスライスする。
- ❶に軽く塩を振って10分ほど置く。
- キッチン・タオルの上に❷を載せ、上からもキッチン・タオルを被せて水分を取り除く。
- 各食パンの片面にバターを塗る。
- ❹(3枚分)の上にキュウリを隙間なく並べる。
- ❺に好みで胡椒を振り、上からバターの付いた面を下にした食パンを被せる。
- パンの耳を切り落とし、食べやすい大きさに切る。
memo
食パンは、白くて柔らかいタイプが良いと言われています。食パンもキュウリも、向こう側が透けて見えるくらいに、できるだけ薄くスライスしたものが正統だとか。