バース・バンズ
Bath Buns
「ご当地グルメ」といえば日本の得意分野という気がしますが、英国にもその土地の名前を付けた食べ物が色々あるのをご存知でしょうか。中でも今回は、街全体が世界遺産に指定されている美しい場所、バースに伝わる甘いパン「バース・バンズ」をご紹介しましょう。
訪ねたのはバース市内にある、その名も「ザ・バース・バン」というティー・ルーム。花柄の壁紙とテーブルクロスがいかにも、という感じの可愛らしいお店です。さすがはこの伝統菓子を売りにしているだけあって、壁一面にバース・バンズについての歴史とレシピまで紹介されています。
さっそく紅茶とバース・バンズを注文すると、しばらくして丸いお皿の上に、ぷっくりと膨らんだ丸型の主役が登場しました。おまんじゅうくらいの大きさを想像していたら、意外に大きい!(あとで家で測ったら、直径11センチでした)。てっぺんの辺りにカランツとざらめのようなつぶつぶのお砂糖が飾られています。一緒にナイフとバターが出てきたので食べ方を聞くと、スコーンのように真ん中で切ってバターをつけてもいいし、少しずつつまんでもいいし、好きなように、とのこと。とりあえず、スライスしようとナイフを入れると、まずその柔らかさにビックリ。そして、半分に切れたときには、つぶれそうになったバンの中にボタンのような白い塊が。実はこれ、角砂糖を忍び込ませてあるのです。
ところで、1760年代にこのお菓子を考え出したのは、ウィリアム・オリバーというコーンウォール出身でバース在住の医師だったというから驚きです。バースには温泉があり、当時はスパのある当地に療養に来る人々も多かったと言います。オリバー医師はリューマチ患者などにこのバンズを処方(?)していたそうです。もともとはキャラウェイ・シードを砂糖でまぶしたものが混ぜられていたようですが、輸入の砂糖がまだまだ貴重な時代。甘いつぶつぶの入ったパンがバースに来る療養患者たちに喜ばれ、それが一般の人々にも伝わり、人気となっていったというのも納得できます。バンの中の砂糖や上に散りばめられた砂糖は、その時代にいかに砂糖が喜ばれ、ありがたがられていたかの象徴と言えるでしょう。
ちなみに「ザ・バース・バン」と目と鼻の先の場所にあるのが、バース・バンズの元祖(?)を名乗る「サリー・ラン」というお店。サリー・ランは1680年にフランスから移民としてやって来た女性で(フランス名はSolange Luyon)、彼女がここでフランスのブリオッシュ風パンを焼き、それがバース・バンズの元になったと同店では主張しています。店内地下には当時の台所やオーブンを保存した「ミュージアム」があり、箱入りのサリー・ランをお土産に買うこともできます。こちらは直径約13~15センチとより一層大きいのですが、やはり軽い口当たりで、意外にぺろりと食べてしまえます。
バース・バンズの作り方(12個分)
材料
- 強力粉 ... 450g
- 卵 ... 2個
- バター(溶かしておく) ... 50g
- 牛乳 ... 150ml
- ドライ・イースト ... 7g
- 塩 ... 小さじ1
- カスター・シュガー ... 50g
- カランツ ... 50g
- 角砂糖 ... 適量
作り方
- 強力粉、イースト、塩、カスター・シュガーをボウルに入れて混ぜる。
- ❶に溶かしバター、溶き卵、牛乳を加えてよく混ぜる。このとき、大さじ1杯分程度の卵をよけておく。
- ❷が柔らかい生地になるまでよくこねる。
- 生地をボウルに入れ、上から濡れ布巾をかけて倍くらいの大きさになるまで1時間半ほど発酵させる。
- 生地が膨らんだら12個に切り分けて丸形に形成し、真ん中に半分に割った角砂糖を入れる。
- ❺をベーキング・トレイに載せて約30分ほど、倍の大きさになるくらいまで二次発酵させる。
- 表面に溶き卵を塗り、カランツと細かくした角砂糖を上から振りかける。
- 170℃に予熱したオーブンで20~30分ほど焼く。
memo
焼きたてがおいしいバース・バンズですが、冷凍保存も可能。解凍後は改めてオーブンで温めてどうぞ。