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Fri, 29 March 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 59

トフィー・アップル
Toffee Apple

Toffee Apple

「ど、どうしてテスコにリンゴ飴が売っているの~ ?」

行き慣れている近所のスーパーで「トフィー・アップル」を見たとき、突然、胸がどきどきしてきました。持ち手の部分は割り箸ではなくアイスクリームの棒みたいですが、セロファンで包まれたそれは、紛れもなくリンゴ飴。日本のもののように真っ赤ではなく琥珀(こはく)色とはいえ、見間違うわけがありません。

途端に、私はロンドンの片隅の巨大スーパーから、小学5年生のときに行った天神様のお祭りへとタイムトリップしていました。

リンゴ飴と言えば、幼いころに恋い焦がれた食べ物。私の母親は「ほこりや汚れがついたままの洗っていないリンゴを使っているから」という理由で、どんなに懇願してもリンゴ飴を買ってくれませんでした。なので私がこれを初めて食べたのは、小学5年生になって、親の同伴なく友人たちとお祭りに出掛けたときだったのです。

毒々しいほどにてらてらと赤く光るガラスのようなリンゴ飴。ひと口なめたときはただのべっこう飴の味で、実はちょっとがっかり。でも、友だちが食べる様子を真似て、カツカツっと歯で飴にひびを入れ、リンゴの果肉に歯をそそり立て、がぶりと噛んでみた瞬間。口の中で両者が一体となってしゃりしゃりと音を立て「あぁ、こんなにおいしいものだったんだ」と、ふつふつとうれしさがこみ上げたのを覚えています。

一方、テスコで買ってきた英国のトフィー・アップル。もちろん、外側の部分とリンゴをひと口でかじりましたよ。多分、コックス(Cox's Orange Pippin)という品種と思われる小ぶりのリンゴは、酸味がしっかりあり、それがトフィーの甘さを引き立てて、日本のリンゴ飴以上においしいような気がしました。でも、もしかしたらそれは、英国で思いもかけずリンゴ飴に出合った興奮が、おいしさを脳内増加させていたせいかもしれません。

ちなみにこのトフィー・アップル、一年中売っているわけではなく、見掛けるのは10月下旬から11月初旬辺り。本誌1492号で紹介されていた収穫祭や、ハロウィン、ボンファイヤー・ナイトといったイベント時期に出回る食べ物です。

「The Diner's Dictionary」という書物によると、トフィー・アップルは20世紀初めに作られたものだそうですが、起源は明記されていません。また、社会史学者ドロシー・ハートリーの著書「Food in England」には、砂糖が輸入される以前は、リンゴに蜂蜜をかけたトフィー・アップル的なものがあったのではないかと書かれています。

ところで、今回のレシピ試作を夫が食べようとしたとき、歯でコツコツっとキャンディー部分にひびを入れようとしているのを見て「私と同じ食べ方!」と思わず笑ってしまいました。リンゴ飴の食べ方に国境はないようです(?)。

トフィー・アップルの作り方(6個分)

材料

  • リンゴ(グラニー・スミス、コックスなど小ぶりのもの) ... 6個
  • ゴールデン・カスター・シュガー ... 200g
  • 水 ... 100ml
  • ゴールデン・シロップ ... 大さじ2
  • 割り箸 ... 6本

作り方

  1. リンゴをよく洗った後、キッチン・ペーパーなどでしっかり乾かし、ヘタの部分から割り箸を突き刺す。
  2. 小なべにゴールデン・カスター・シュガー、水、ゴールデン・シロップを入れて15~20分、煮立てる。
  3. 液にとろみがついてきたら、スプーンで少量すくって、クッキング・シートの上に落とす。液がすぐ固まるようならばトフィーの完成。火を止めて、なべを斜めに傾けたところにリンゴを入れを全体にからめる。
  4. クッキング・シートの上に置き、トフィーが固まって冷めるまで待って出来上がり。
memo

ドロシー・ハートリーやほかの料理書のレシピでは、バターを入れる場合もあります。また、ナイジェル・スレーターのレシピは潔く砂糖と水のみを使用。ちなみにバターを加えるとキャラメル風味になります。バター入り、バターなし、食紅で色を付けるなど、お好みでどうぞ。トフィーがしっかり固まる150℃前後まで煮立てるというのが重要なので、失敗を防ぐには料理用温度計を使用した方が確実です。

 
マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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