アップル・パイ
Apple Pie
「ウィンドフォールズ(windfalls)。ご自由にどうぞ」と書かれた箱にいっぱいのリンゴが、近所の家の歩道沿いに置かれていました。これを見ると「また今年もリンゴの季節がやって来たな~」と感じます。庭の木にたくさん実ったリンゴをこうしておすそ分けするのは、英国らしい習慣。林望氏の大ベストセラー「イギリスはおいしい」の中でも紹介されています。
さて、頂いてきたリンゴで早速作ったのは、誰もが一度は食べたことがあるアップル・パイ。この国では最もポピュラーなパイの一つです。そして多分、そのパイにたっぷりとカスタードをかけて食べる英国人の様子を初めて見たときには、「どうしてわざわざアップル・パイにカスタードをかける必要があるのか?」と疑問に思った方も少なくないと思います。
一方で、アップル・パイといえば、米国のもの、というイメージを抱いている方もいるかもしれません。というのも、「極めて米国らしい」とか「米国を象徴する」といった意味で使われる有名なフレーズ「as American as apple pie」があるから。もちろん、英国人の多くはこれに異議を唱えています。著名な食文化史の研究者のアイバン・デイさんもその一人。デイさんによれば、欧州の人々が米国に入植する以前から、英国では「アップル・パイ」を食べていたというのですから、当然でしょう。
では、アップル・パイがいつごろからこの国で食べられていたかというと……はっきりとした年代は分かっていません。最も古いレシピとしては14世紀のものが残っていますが、それは、スパイスとイチジク、レーズン、ナシと、更にサフランを加えて焼いたというもので、現在のアップル・パイとは少々趣が異なっていたかもしれません。
また、デイさんが紹介するところによると、シェイクスピア時代のアップル・パイは、分厚く、どっしりとしたパイ生地に、皮をむいた丸ごとのリンゴをいくつか入れて焼いたもの。焼き上がったら、パイの上部(蓋となる部分)を切り取り、上からアルコールで作った(!)カスタードをじゃぶじゃぶかけて食べたのだとか。アップル・パイにカスタードをかけるのは、既にシェイクスピア時代から行われていたのですね。
ちなみに日本のアップル・パイは、サクサクとした食感の、英国では「パフ・ペイストリー」と呼ばれる生地を使ったものが多いですが、こちらでは小麦粉にバター(脂類)、塩と水を混ぜただけの「ショートクラスト・ペイストリー」が一般的。これは、小麦粉に対して脂肪分が多く、どちらかというと、パサパサとした食感の生地です。
生地がポロポロしやすいので、こぼさず上手に食べるには、やっぱり、パイが溺れそうになるほどカスタードをたっぷりかけるのが良いのかもしれません。
アップル・パイの作り方
(直径20センチの浅いパイ皿1個分)
材料
- リンゴ(好みの品種で) ... 650g
- 小麦粉 ... 225g
- 塩 ... ひとつまみ
- バター ... 140g
- 水 ... 大さじ6
- カスター・シュガー ... 50g+飾り用少々
- シナモン ... 小さじ1
作り方
- ボウルに小麦粉と塩を入れ、サイコロ状にカットしたバターを加えて、生地がそぼろ状態になるまで指先でよく混ぜる。
- ❶に水を加えてこねてまとめたら、ラップに包んで冷蔵庫で1時間ほど冷やす。
- リンゴをいちょう切りにしてボウルに入れ、カスター・シュガーにシナモンを加えて全体にまぶす。
- 冷蔵庫から出した❷を、3:2の割合の大きさに分け、大きい方を、パイ皿全体を覆える大きさに伸ばし、パイ皿に敷く。フォークで底の部分にいくつか穴をあけておく。
- ❹の上に❸を全体が均等の高さになるように並べる。
- 生地の縁の部分に水をつけて、❹で分けた小さい方の生地をパイ皿の大きさに伸ばし、上から被せる。
- 生地を押さえてくっつけたら、はみ出している部分をカットして形を整える。
- 縁の部分に指で波型の模様をつけるようにして、更にしっかりとくっつける。
- 蒸気が抜けるようパイの真ん中に十字の切り込みを入れ、200℃に予熱したオーブンで20~30分焼く。
- 焼き上がったら、上からカスター・シュガーを振りかけて出来上がり。好みでカスタードやダブル・クリームなどをかけて召し上がれ。