ブレグジットとコロナ禍における英国グループ監査の注意点
この記事を執筆している12月14日時点で、ブレグジット交渉は合意なき離脱の混乱を回避すべく話し合いが継続されることが決まりました。一方でロンドンはTier3に分類さることが発表され、再びロックダウンです。先行きが極めて不透明な状況下で、12月末の決算を迎えた日系企業は多く、暗中模索のなか、決算や監査に向けた準備を進めなければなりません。今回は英国グループ監査の視点から注意点についてお話をしたいと思います。なお、これらは英国会計基準(FRS102)と英国会社法(Companies Act 2006)に基づいています。
弊社では英国ホールディング会社以下、欧州各地に子会社があります。ブレグジット対策は取ってきたつもりですが、影響は未知数で、またコロナ禍での業績悪化が重なっています。監査に備えて注意すべき点を教えてください。現在のようなビジネスを取り巻く環境が不安定な場合、英国グループ連結決算書においてはのれん代、英国親会社単体では子会社への投資という観点から、減損の有無を検証する必要性が高まります。
減損の兆候を把握した場合は回収可能価額を算出し、投資額を下回る場合は減損を認識します。回収可能価額とは、使用価値と賞味売却価値の高い方を指します。しかし減損の兆候がいつ把握されたかも重要となります。例えばコロナ禍による業績の低下であれば、2020年12月時点ですでに兆候が把握されていたことになります。しかしブレグジットの行方によって子会社の将来キャッシュ・フローの著しい毀損が新たに予測されることになった場合、2020年12月期末時点においては兆候が把握できなかった可能性が高くなります。この場合は2020年度での減損認識は行わず、後発事象として扱うことになります。
期中にグループ内でブレグジット対策のための再編を行いましたが、監査への影響はありますか。英国で連結決算を行う場合、監査対応でも注意が必要です。例えば英国外に子会社や支店がある場合は現地監査の必要の有無を事前に確認をしておくことをお勧めします。グループ監査人は、グループ全体から構成単位の重要性を判断することから、期中の大きな再編などによって英国グループ全体の規模や構造が大きく変更された場合は、子会社に対する求められる監査スコープが変わる可能性が十分にあります。
具体的にはドイツの子会社に英国事業の一部を移管したのですが。例えば昨年度まではドイツ子会社は現地監査まで求められておらず、英国のグループ監査人が分析手続きなどで対応していたものが、今年からドイツ子会社への事業移管によってドイツ子会社の重要性が増し、英国監査人からドイツ子会社の現地監査の実施を求められることもあり得ます。ただし、必ずしも法定監査と同等のスコープとは限らず、グループ監査人からは特定のリスクに対する、所定手続きの実施のみをインストラクションする可能性もあります。従って、グループ監査人とは早い段階で情報共有をしておくことで、監査人にとっても全体の監査アプローチを早めに検討、決定することができ、企業側も対応する時間に余裕を設けることにつながります。
高西祐介
監査・会計パートナー
英国大手会計事務所にて多くの英系大企業監査を担当。日系企業をサポートしたいという強い思いからGBAへ。監査、ファイナンスデューデリ、組織再編アドバイスを専門とする。