第164回: 国際的なリモート・ワークの英国税務への影響
現在も世界各地でリモート・ワークをしている従業員がいます。こうした人は、どこで税金を納める必要がありますか。
英国の課税については、その人が英国の税務上の居住者であるかどうかによって異なります。また、国外での勤務期間や滞在国によっては、その国で税金を納める必要が出る場合もあります。
その従業員が英国の税務上の居住者かどうかは、どう判断するのですか。
課税年度の1年間に英国で183日以上を過ごした場合、自動的に税務上の英国居住者となり、全世界の所得に対して英国で課税されます。ただし、別の国への出張が多い場合は、その国の所得税も課される可能性があります。また、英国と租税条約を結んでいるかどうかによっても判断が異なります。
英国での給与計算処理はどのようになりますか。
対象となる従業員を引き続き英国のペイロール処理に含め、通常の英国の所得税を源泉徴収する必要があります。ただし、二重の源泉徴収によって従業員のキャッシュ・フローに影響を与えることを防ぐため、その国に関する状況を確認する必要があります。
社会保険料についてはどうですか。
社会保障の扱いは所得税とは異なります。外国の社会保障の位置付は、必ずしも所得税の位置付けと一致するとは限りません。従業員が外国で社会保険料を支払う必要がある場合、雇用主も支払う義務が出る可能性が高くなります。
英国と何らかの協定を結んでいる国もあると聞きました。
英国は数多くの国(EU、米国、日本など)と社会保障協定を結んでいるため、国外での社会保険料の負担をある程度は回避することが可能です。こうした協定では、従業員が雇用主によって国外に派遣された場合、引き続き自国の社会保障制度に対する支払い責任があります。しかし英国は、中国、オーストラリア、インド、ブラジル、南アフリカなどの「主要国」とは、現在のところこうした協定を結んでいません。
欧州で働く従業員はどうなりますか。
EU域内でリモート・ワークをする場合、英国の従業員は通常、「ポステッド・ワーカー」(海外派遣労働者)または「マルチステート・ワーカー」(複数国勤務労働者)のルートを通じて、英国の制度内に留まることが可能です。ただし、さまざまな制限や期限が設けられているため、慎重に検討して継続的にモニターをする必要があります。
法人税の問題はどうでしょうか。
従業員が国外に滞在し活動することで、その国に雇用主の「恒久的施設」があると判断される場合は、法人税が課される可能性があることに、雇用主は注意する必要があります。リモート・ワークの活動内容、場所、期間が、その企業の外国での税務ポジションを決める上で重要なポイントとなります。
そのほかの問題についてはどうですか。
従業員と雇用主は、その国における移民法上での就労権、その国の労働法、国外での従業員の健康と安全に関する雇用主の法的責任など、リモート・ワークの取り決めによって発生しやすいそのほかの法的・人事的な問題に注意する必要があります。
*この記事は一般的な情報を提供する目的で作成されています。更なる情報をお求めの場合は、別途下記までご相談ください。
チー・ラム
アソシエートパートナー
DeloitteとPwCに15年以上勤務し、駐在員税務に関するアドバイスを多くの多国籍企業に提供。英国税務のコンプライアンス、HMRCへの対応、渡英前の個人・企業税務計画なども得意とする。