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Sun, 26 September 2021

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

10年に1度の国勢調査 性自認は今年初 - 政策立案、学校、病院の運営、学者の研究に役立つ

今年は、10年ごとに実施される国勢調査の年に当たります。

「国勢調査日」として設定された3月21日、イングランド、ウェールズ、北アイルランド地方に住む人は所轄の統計管理当局のウェブサイト上で、世帯ごとにあらかじめ送られてきたアクセス用コードを入力し、名前、年齢、人種、職業、家族構成などをオンラインで記入するよう要請されました(インターネットにアクセスできない人は郵送された用紙に書き込む形も可能)。筆者も、家族と一緒にオンライン入力し、英国の国民的事業に参加した思いがしました。スコットランド地方では新型コロナウイルスの感染拡大による影響を避けるため、国勢調査を来年3月に行うそうです。

情報の提出は義務化されており、提出しなかったり、偽りの情報を記入したりした場合、最大で1000ポンド(約15万円)の罰金が科されます。調査を提出していない世帯には統計担当者が訪問し、情報の提出を促される場合があるそうですが、英国での居住が3カ月未満の人は、国勢調査に参加する必要はありません。

収集された情報は名前、出生日、住所などの個人情報が識別できない形で国勢調査担当機関から政府や外部組織に提供されます。例えば地方自治体は学校、病院、ゴミの収集サービスの運営に利用し、ロンドンでは消防隊の防災計画に役立てられます。慈善組織は社会の不平等の解消など、それぞれの目的達成のため、大学では研究・調査目的で使うことができます。全情報が公開になるのは100年後。1921年の国勢調査の全情報は2022年に公開予定です。

英国で最古の国勢調査と言えば、イングランド王国を征服したウィリアム1世の命で作成された、土地台帳「ドゥームズデイ・ブック」(1086年)が知られていますね。全国規模で行われる現在のような国勢調査は、1801年から。英国が工業化社会に移行する18世紀末、人口急増による食糧不足の回避、ナポレオン戦争(1799~1815年)への兵力確保などのため、人口構成の把握が必要となりました。その後、約10年毎に行われてきましたが、1931年の調査結果は火事で失われ、第二次世界大戦中の1941年には実施されませんでした。

収集される情報の項目は年を経るにつれて変化しています。19世紀初めには世帯内の頭数を数えることが主眼でしたが、1841年以降、世帯内の全ての人物の名前を記入することになり、より詳細な情報が収集されていきます。1971年、81年の調査では回答の選択肢の中に「主婦」(housewife)がありましたが、90年代以降はこれが「家庭あるいは家族の面倒を見る人」に。

21年の調査で初となるのは、16歳以上を対象に性自認に関する任意の質問が入ったことです。「出生時に登録された性とあなたの性は一致していますか」という問いです。異なる場合には自認する性を記入してもらいます。現在の英国には、出生時に登録された性別と異なる性を自認する人々についての公式統計がなく、こうした情報を集めることができれば、政策立案や性の平等実現のために役立つと考えられています。インターネットによる情報提出を優先させていることも初めてです。

それにしても、国勢調査の10年という区切りはかなり長いように思えませんか? 国家統計局(ONS)推定では、今回の調査経費は前回の約2倍にあたるおよそ9億ポンド(約1345億円)になる見込み。ONSの業務を監督する「英統計理事会」のイアン・ダイアモンド最高経営責任者・国家統計官によると、現在、より低い経費でもっと直近の情報が得られる形を研究中だそうです。陸地測量局、家庭医のリスト、カウンシル・タックスの記録、運転免許証などから得られる情報を使った方が現状を正確につかめるのではないか、と。次回の国勢調査は現在とはかなり異なるものになる可能性が出てきました。

キーワード

Office for National Statistics(英国家統計局)

英国の経済、人口、社会についての統計情報(国内総生産、国際収支、物価、雇用、出生、婚姻など)を収集し、発表する組織。通称「ONS」。1996年、中央統計局と人口センサス調査局の合併で発足。国勢調査ではイングランド、ウェールズ地方を担当する。ウェールズ地方ニューポート、イングランド地方ティッチフィールドおよびロンドンに事務所を置いている。

 
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