グレンフェル・タワーの悲劇火災発生から4年責任追及の調査が続く - 建築物の修繕費に苦難も
ロンドン西部の高層公営住宅グレンフェル・タワーで発生した72人が亡くなる痛ましい火災事故から、6月14日でちょうど4年。火災でこれほどの数の犠牲者が出るのは第ニ次世界大戦以来だそうです。
全129戸の24階建てタワーは1970年代に建築され、ケンジントン・チェルシー行政区が所有・管理する低所得者向けの公営住宅です。高さは約67メートル。同行政区にはケンジントン宮殿やセレブが住む豪邸もありますが、タワー周辺は、イングランド地方で最も貧困度が高い地域の上位10パーセントに入ります。事故を振り返ってみましょう。6月14日午前0時50分ごろ、住民の一人が自室の冷凍冷蔵庫から煙が出ていることを発見し、消防署に通報。数分後、消防隊が到着しました。消防隊は火元の部屋を鎮火する想定の下、タワー内にいた約300人の住民に対し、午前3時近くまで「その場で待機」という指示を出します。しかし短時間で建物全体に火が回り、指示に従った住民は部屋に閉じ込められた格好となりました。最終的に火が収まったのは翌15日午前1時過ぎ。タワーから最後の住民が救出されたのは午前8時を回ってからです。避難住民の数は223人でした。
これほど多大な犠牲者を出したのは、住宅管理を担当する行政側が貧困層の命や安全を軽視したことが原因ではないか、と言われました。特に問題視されたのが、2016年に大規模な改修工事が施されたときに取り付けられた、可燃性の外装材です。政府が任命した公的事故調査委員会も、火災の発生原因についての調査報告書のなかで、火が急速に広がった原因として化粧用に張られた外装パネルを挙げました。パネルは両面アルミ板で可燃性のポリエチレンを間に挟み、このポリエチレンが燃料の役目を果たしたというのです。この外装材の製造企業は、18メートル以上の建築物に適用される安全基準を満たさないものであったことを公にしていませんでした。現在も、委員会は火災の責任追及のための調査を行っています。タワー火災後、政府は同様の外装材を18メートル以上の高層建築物に使うことを禁止しましたが、基準を11メートルに下げるかどうか、意見を募っています。
この種の外装材が使われている高層住宅の正確な数は明確ではないのですが、政府の調査によれば、イングランド地方では462あり、すでに200以上では取り外しが終わっているそうです。ただこれは、18メートル以上の高層住宅という基準で測ったもので、住宅管理代理協会によれば、危険な外装材が使われている住宅に住む人は約50万人に上るそうです。
政府は危険な外装材の取り外し経費として50億ポンド(約7710億円)を計上しています。事故調査会の報告書を受けて、建築物の管理責任者・所有者による火災リスク減少のための責任を重くする「火災安全法」も今年4月29日に成立しました。ただ、大きな問題も発生しています。住宅が建つ土地を所有するフリーホールダー(自由土地保有権を持つ人)が改修費用を負担することになるのですが、これをリースホールダー(不動産賃貸権を持つ人)に転化する場合が多いのです。個人で住宅を所有する人の多くが後者に相当します。外装材を取り外す間の追加の安全対策も負担することになります。先の政府の経費負担は18メートル以上の高層住宅用で、それより低層の住宅の場合は貸し付けとなりますが、最大でも月に50ポンドの返済額に抑えるようにするそうです。
19年7月から、タワーの敷地は政府の管轄下にあるのですが、今後は未定。政府は住民からの声を募っていますが、建築専門家らは取り壊しを推奨しているそうです。地元では、タワーが消えても犠牲者を忘れないよう、記念碑を作るための話し合いが行われています。
ACM cladding(ACM外装材)
高層住宅グレンフェル・タワーに改修工事で設置された外装材。Aluminium Composite Material(アルミニウム複合材料)の略。薄い板状のアルミニウム2枚にポリエチレンが挟まれた形を取る。仏アルコニック・アーキテクチュラル・プロダクツ社が販売。外側から鋲で固定する製品と箱型にして側面に鋲を打つ製品がある。タワーに採用された箱型は欧州の安全テストで低評価となり、英国ではテストも行われなかった。