Children Of Men(2006 / 英・米)
トゥモロー・ワールド
子供が生まれなくなってしまった近未来の世界を舞台に、人類存続の希望を宿す一人の少女と、彼女を巡る闘争に巻き込まれた男の運命を描く。
監督 | Alfonso Cuarón |
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出演 | Clive Owen, Julianne Moore, Michael Caineほか |
ロケ地 | Fleet Street London EC4 |
アクセス | 地下鉄Temple / Chancery Lane / Blackfriars駅から徒歩 |
- 今週は数々の賞に輝いている英国の女流推理作家、P・D・ジェイムズのベストセラー小説を基にした近未来SF大作です。
- 舞台は2027年のロンドン。世界最年少の青年が刺殺されたというニュースを受け、人々が悲嘆に暮れているシーンから始まります。というのも、この世界では人間の生殖機能がなぜか失われ、ここ18年もの間、全く子供が生まれていないのです。
- 子供の声がどこからも聞こえない世界……。考えたこともなかったが、想像するととても悲しいな。
- しかもここで描かれている近未来の世界は不法移民で溢れ返り、カオスと化しています。 政府は移民たちをまるで動物のように扱い、ケージに収容。前半に見られるこのシーンはBethnal GreenにあるDorset Estate前で撮影されていますが——そんな状況ゆえ、テロが横行し、ロンドンの街は殺伐として、さながら紛争地帯のようになっています。ちなみに冒頭の爆破テロのシーンは、City界隈、Fleet Streetですね。
- それにしてもこの作品、まるで戦争ドキュメンタリーのようだよな。
- 事実、キュアロン監督もそういった方向を目指していたようですね。驚異の長回し映像を数カ所に用いて臨場感を出したり、混沌とした雰囲気を醸し出すため、ロケ地も東ロンドン界隈を多く採用しています。
- たとえばジュリアンとセオがバスを降りて「Fish」の仲間らが待つ車に向かう場面は、今やお洒落なインディー系ショップが立ち並ぶCheshire Streetの一角ですし、2人がトンネルを抜けて歩いていくシーンはFleet Street Hillです。わざとゴミを置いて荒廃した雰囲気を出していますが。
- 演出も細部にわたって示唆に富んでますね。たとえばBexhillの難民キャンプで、キーの付き人ミリアンがバスから連れ去られるシーンがありますが、ここではリバティーンズの「Arbeit Macht Frei」がBGMに使われています。この曲名はそもそも19世紀のドイツ人作家、ロレンツ・ディーフェンバッハの小説のタイトルなのですが、「働けば自由になる」という意味で、ナチス政権が強制収容所のスローガンとして用いたことで広く知られています。
- また同シーンでは、イラク戦争時の悪名高きアブグレイブ刑務所での拷問事件で世界に衝撃をもたらした「Hooded man」の写真と全く同じポーズをとっている囚人が映っています。
- 本当に細部にわたって見逃せんな。個人的にはバタシー発電所も印象的だ。セオが芸術省のいとこを訪ねるシーンだが。
- ピンク・フロイドのアルバム「アニマルズ」のオマージュですね! あのアルバム・カバー同様に、空飛ぶブタが見られます。ちなみにこの建物のエントランスはテート・モダンのTurbine Hallです。
- このシーンでは今や超有名な英国のゲリラ・アーティスト、バンクシーの作品「Kissing Cops」も見られるね。
- バンクシーの作品は他の場面でも使われているので、これから観る方はぜひ探してみてください。
- しかし「トゥモロー・ワールド」っていう邦題はどうなのよ!? どこぞの遊園地みたいなタイトルで拍子抜けしないか?
- ですよねー。僕もそこは気になりました。原作どおり「人類の子供たち」でも良かったような気がしますよね。
元妻ジュリアンとの間にできた子供を病気で亡くして以来、何にも興味を抱けなくなっていたセオ。この、絶望のあまりドライになっている男、しかしなぜか動物たちが懐いてしまう男、そしてここぞというときには頼れる男を、クライヴ・オーウェンが見事に演じきっているぞ。そしてマイケル・ケイン扮する元風刺漫画家のジャスパー!ケインは彼の友人だったジョン・レノンをモデルに、このキャラクターを演じたらしい。なかなか感じ入るものがありますなあ。
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