If…（1968 / 英)
If もしも....

500年の伝統を誇る全寮制のパブリック・スクールで、抑圧された教育に対して違和感を抱く3人の生徒が徐々に反抗心を募らせる。やがて学校側も彼らを反逆分子として扱うようになり……。

Picture by: Rebecca Naden/PA Archive/
Press Association Images

監督	Lindsay Anderson
出演	Malcolm McDowell, David Wood, Richard Warwickほか
ロケ地	Cheltenham College
アクセス	ロンドンPaddington駅から最寄駅のCheltenham Spa駅まで列車で約2時間30分

• いやあ、やっと観ましたよ、リンゼイ・アンダーソン監督の「If もしも....」。すごい映画ですねえ。カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞したというのも納得です。
• フフ、タロウ好みだと思ったよ。
• 怪優マルコム・マクダウェルの記念すべき映画主演デビュー作であるうえに、あのスタンリー・キューブリック監督も、本作を観て彼を「時計じかけのオレンジ」に抜擢したんですよね。
• この作品が世に与えた影響は計り知れないよ。マーティン・スコセッシだって、あの名作「タクシー・ドライバー」でデ・ニーロが演じた主人公の名前は、本作でマクダウェルが演じた主人公「トラヴィス」からとっていると言ってるんだから。
• リンゼイ・アンダーソンは、映画監督になる前に映画評論家として活躍していた人なんですよね。伝説の映画ジャーナル「Sequence」を立ち上げるなど、傑出した評論家として知られていました。さらに50年代に英国で起こった「フリーシネマ」という、ドキュメンタリー映画のインディペンデント活動を牽引した人物でもありまして、後のブリティッシュ・ニューウェイブ運動にも多大な影響を与えているのであります。
• ところで本作のロケ地として使用されたグロースターシャー州のCheltenham Collegeは、アンダーソン監督の母校じゃなかったっけ。しかも当時、実際に同校に通っていた生徒たちが出演していたとか。
• そうなんです。アンダーソン監督はいくつかの学校に撮影交渉を行ったらしいのですが、体罰、同性愛、反抗、暴力、ヌードなどの描写があるため、なかなか許可が下りなかったようです。最終的に母校で3週間にわたって撮影されましたが、クライマックスとなるラスト・シーンは、契約上の都合でハートフォードシャー州のElstreeにあるAldenham Schoolが使われました。
• ちなみにこの有名なシーンは、モンティ・パイソンの名作コメディー番組「空飛ぶモンティ・パイソン」の第2シリーズ第6話でパロディー化されてます。
• 学校以外のシーンも、ほとんどCheltenhamで撮影されてたんだよな。私はあの「盗んだバイクで走り出す〜♪」って、つい口ずさんでしまう逃避行シーンが、とっても好きなのだ。
• あのシーンは最高ですね。妄想と現実が交錯した芸術的ショットの連続! 手錠でつながれた2人が街に出て行く場面はCheltenhamで撮られてますね。道行く人はエキストラではなくて、本物の通行人だったそうですよ。格闘ごっこでジョニーが倒れた際、通りがかった中年女性がトラヴィスに話しかけていますが、この人は本当に心配して「突っ立ってないで救急車を呼びなさい」って言っているそうです。
• もうね、私なんかはね、あの一連の妄 想シーンが可笑しくてたまらないんだよね。あの妄想はマルコム・マクダウェルなくして体現できなかっただろうなあ。カフェでの「女」との一幕なんか、何度観ても飽きないよ。最後のバイク立ち乗りまで、すべてが完璧だ。
• あのカフェはCheltenham中心地から約6キロ離れた、Tewkesbury Road沿いにかつて存在した「Packhorse Cafe」ですね。部分的に使われているモノクロ映像が非現実感を倍増させていて、白昼夢のような印象を残していますね。

アンダーソン監督を知る人はみな「彼は英国を愛し、また同時に憎んでいた」と言っている。そんな監督の思い——英国の階級制度を背景とした抑圧された感情、相反する感情を、幻想や妄想、風刺を交えて見事なまでに美しく、アナーキックに映像化した作品だ。学生運動や文化革命の気運が高まっていた当時の社会を色濃く反映した一本でもある。ちなみに製作にあたり、監督が影響を受けたのが、ジャン・ヴィゴ監督の1933年作品「新学期 操行ゼロ」なんだそうだ。