Blow-up (1966 / 英・伊・米)
欲望
売れっ子カメラマンのトーマスは公園で偶然見かけたカップルを盗撮するが、そのフィルムを現像したとき、不自然な影が写っているのを発見し……。
監督 | Michelangelo Antonioni |
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出演 | David Hemmings, Vanessa Redgrave, Sarah Milesほか |
ロケ地 | El Blason(スペイン料理店) |
アクセス | 8-9 Blacklands Terrace, London SW3 2SP |
- 「私が生まれるということは不条理である。私が死ぬということも不条理である」とはサルバドール・ダリの名言だが、人生とは矛盾だらけ、不条理なものよのぅ。
- おお、哲学してますね、デカ長。
- うん、久しぶりにこの、ミケランジェロ・アントニオーニの傑作「欲望」を観たら、何か感化されちゃったのよ。若い頃に初めて観たときは「よく分かんないけどカッコいい!」ぐらいの感想だったけど、今回はいろいろ考えちゃったよ。本作はアルデイヴィッドゼンチンの作家、フリオ・コルタサルの短編「悪魔の涎」を基に、監督自身が脚本を書き上げたんだよな。
- はい、アントニオーニ監督にとって初の英語作品です。若かりし頃のヴァネッサ・レッドグレイヴや、ジェーン・バーキンも出演していますね。また、主人公のトーマスは、当時活躍していたカメラマンのデイヴィッド・ベイリーをモデルにしていると言われています。
- 独特の世界観から時に「難解」とも評される、アート色の強いミステリー・ドラマで、1967年のカンヌ映画祭では見事パルム・ドールを受賞しています。意味不明なカットが満載なので、感覚的に捉えるか、沈思に至るかのどちらかに分かれそうですね。例えば最初と最後に出現する、車に乗った狂騒パントマイム集団とか。あれは一体、何を象徴しているのか、明言できる人は誰もいないそうです。
- スウィンギング・ロンドンの狂騒を暗示しているとも言われますが……。彼らが街中に出現するシーンは、地下鉄グリーン・パーク駅近く、St. James's Street 25番地のEconomist Building前の広場で撮られてます。
- それと、何と言っても主人公のカメラマンのキャラクターが強烈ですね。モデルとの絡みや、撮影のシーンがセクシーで印象的です。
- うん、当時この映画を観てカメラマンを志すようになった人がたくさんいたらしいからねえ。影響を受けた人は数知れず。
- その主人公トーマスが、編集者のロンにポートフォリオを見せるシーンがありますが、こちらはチェルシーにあるポッシュなスペイン料理店「El Blason」です。曲線を描く白壁の外観が目を引きますね。
- トーマスはさらに、虚構に満ちたファッション写真とは異なるリアルな一瞬をカメラに収めようとして公園へと足を運び、男女の情事を盗撮するわけですが、こちらはグリニッジに近いWoolwichにあるMaryon Parkが舞台となっています。
- この公園は、象徴的なラストの「パントマイム・テニス」のシーンでも使われているね。
- そうですね。あのテニス・コートは今もそのまま残っているようですよ。
- さて、写真を現像してショッキングな事実が写っていることに気付いたトーマスは、これをロンに報告しようと街へ出かけて行き、あるヴェニューに足を踏み入れますが、ここで演奏しているのは……。
- ご存知ヤードバーズです。ギタリストのジェフ・ベックとジミー・ペイジが共演している数少ない映像の一つとしても知られていますね。観客がほとんど踊らず、ゾンビのように演奏を見ている不思議なシーンです。ちなみに、監督の要望通りにギターを破壊したジェフ・ベックは、このパフォーマンスが気に入り、以来、ライブで頻繁にギターを破壊するようになったそうですよ。
さすがは巨匠アントニオーニ監督の名作、意味がありそうでない、なさそうであるシーンが満載の、抽象画のような映画なのだ。あらゆるシーンが示唆に富んでいるため、一度、深読みしてしまうと、挙句「真実、虚構、妄想の境界って何だろう」とか「人生に意味を求めるのは虚しい」といった具合に、拡大解釈させられるに至るのだ。うーん、これぞアートの真骨頂!
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