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Tue, 26 November 2024

育自の時間。親と子を育てる英国の学校

2002年に画家の夫とともに当時7歳の息子を連れてイングランド南西部コッツウォルズ郊外に移住。現地の小学校から大学受験までを実体験した母親の目から英国教育を見つめます。


第13回 英国で考えさせられた「真の学力」その1

息子が通っていたコッツウォルズ郊外の小さな村にある、小さな公立小学校。今となっては10年以上前の体験となってしまいましたが、当時も英国における児童の基礎学力の低下は、よくニュースなどでも耳にしました。

小学校での学力テストの科目は国語(英語)・算数・理科の3科目です。そして、前回ご紹介したSAT導入理由の一つは、言うまでもなく児童の基礎学力の低下を改善することでした。「読み・書き・計算」の学力があまりに低いということで、1988年の教育改革法のもとに生まれ、1991年以降、本格導入されていきました。

しかしながら、小学校の教育現場に目を向けると、日本のようにクラスの児童全員が一律に黒板に向かって授業を受けるのではなく、テスト導入前も現在も、児童各自の進捗状況に合わせた個人、もしくはグループによる学習指導が主です。

英国は元々、個人主義のはっきりとしたお国柄。ひとクラス30名の児童全員が同じ習熟度であるはずはなく、児童一人一人に即した教育指導を行うべきだと、教育現場のみならず、保護者の大多数は考えているように思います。さらに、個性を尊重しますので、多少、国語や算数の能力が劣っていても、例えば音楽や美術、スポーツなどの科目で優れた才能を発揮すれば、いわゆるお勉強ができる児童同様、周りの大人から褒められ、クラスメートからも尊敬を受けます。

息子の小学校生活を通じてこうした考え方に触れることで、主要科目のみの学力テストの全国平均を教育指導方針の異なる他国と比べること自体が、英国ではいわばナンセンスなのだということが分かってきました。

日本と比べると基礎学力が劣っていると判断される英国。しかし、基礎学力が高い日本よりも遥かに多くのノーベル賞受賞者を輩出し、大学の国別ランキングでも英国の大学が米国に次ぐ上位を占めているのはなぜでしょうか。一体どこで、この逆転劇が生まれるのでしょうか。

それは、ただ単に教育システムの違いによるものではなく、「学び」に対する認識の違いと言いますか、日本の学校教育とは異なる方法論で授業が繰り広げられ、そうした授業で身に着いた「学力」の質が、日本と異なる結果を生み出しているからではないか。息子の受けた教育を見て強くそう感じるようになりました。

そして子供だけでなく、保護者として学校に対してどのように対応していけば良いのかということも、日本とは大きく異なりました。学齢が上がり、息子も親である私も現地校に慣れてきたころから、同じ小学校の英国人保護者たちから聞かされるアドバイスなどによって、私自身も少しずつ、英国の「学び」について理解するようになっていったのです。

イースター・ホリデー
イースター・ホリデーのひととき。子供も保護者も一息つける長期休暇ですが、
それは小さいころの間だけ

 

小野まり小野まり NPO法人ナショナル・トラストサポートセンター代表。2002年、画家で夫の小野たくまさ氏とともに当時7歳の一人息子を連れコッツウォルズ郊外へ移住。現地の小・中・高等学校、大学受験を母親の立場として体験。教育関連の連載エッセイやナショナル・トラスト関連の著書多数。最新刊に「図説 英国ナショナル・トラスト (河出書房新社)」がある。
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