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Thu, 28 March 2024

第34回 長持ちするということ(Build to last)

長持ちする理由

金融市場では、極めて短期でしかものを見ない、または長期で見ているつもりでも数秒で決断を迫られることが多い。20代の若手を見ていても、ブログ、テレビのほか、コンピューター、情報ベンダーの影響からか、極めて少ない情報の中で、手取り早い判断をしがちである。FTによればトムソンという米国の情報提供会社は、米国の経済指標発表後、予想比どうであったか、どう評価すべきかなどのコメントをコンピューターが数秒で書いて提供するそうである。そのうち相当数のディーラーもコンピューターに置き換えられてしまうのではないか。

金融業のみならず、サービス業や製造業の人と話していると、新製品や新サービスの賞味期間が従来の2~3年から1年未満へ、どんどんサイクルが短くなっていると言う人が多い。インターネットなどを通じてアットいう間に広がり、ブームが来てすぐに飽きられてしまうのだそうだ。次々に新製品やサービスを考えないと世の中の変化についていけない。

最近、この「世の中の短期化」が非常に気になる。経済学では、長期、中期、短期を分類して学問体系を立てているが、それでも長期の判断は難しいとされ、現実の市場や政策の世界では長期的な判断をしにくくなっている。物事を考えるのには時間軸が重要である。1つのことを短期的に行えば、それに資源を割り当てるわけだから、長期で見ると他のことができなくなる恐れがある。すなわち何でも上手くいくという方策はなく、時間軸上のトレードオフがあるということに改めて思いをいたす必要がある。

どんなモノでも長持ちするものには、それなりの理由がある。長い間、人々の支持を受け、その需要を満たすには、事前の十分な調査と需要に見合う技術的な裏付けが必要になる。例えば、営業中の人身事故が開業以来なく、1964年以来、40年以上安全運転を続ける日本の新幹線。「プロジェクトX」を見るまでもなく、戦前の弾丸列車計画から始まる周到な調査と技術の賜物とされる。昨年6月には、英国戦略鉄道庁とHSBC Rail UKがロンドン~ケント間におけるCTRL(Channel Tunnel Rail Link)の国内専用車両に関して新幹線技術の導入を発表したほか、台湾、中国への技術輸出も決まっている。

制度、政治での「長持ち」

このことは、モノのみならず、制度や政治でも同じである。英国のインド統治は「東インド会社」が設立された1600年から1947年8月の独立に至るまで3世紀半にわたった。この間英国は、常に専門の高等教育を受けた優秀な人材を現地に派遣し続けた。このことが、仏独蘭といった国々に比べて高水準な安定統治を可能にした最大の理由となり、植民地から撤退後の英印関係にも深く影響している。イスラム原理主義者との関係を考えるうえでの英パキスタン関係、インド経済の台頭後の英印関係、いずれにも3世紀半の歴史が効いており、米国には真似のできない独自性を英国は持っている。日本もそのこと自体の当否は問題としても、明治30年代からの台湾統治においては、英国の例に倣い日本の習俗を台湾の人々に強制することは好ましくないとした。台湾総督府の文民統治官・後藤新平は、台湾の習俗のみならず、中国古典の「周礼」まで遡り、中国行政法を徹底的に調査研究し、実際の統治に利用したのだ。

日本の植民活動と敗戦による植民地開放が台湾同様に行われた朝鮮、中国本土とを比べると、明らかに地域毎に日本や日本人への感情的なしこりが全く異なっている。これは思うに、統治のあり方とその前提となる調査活動の差も何がしかの影響があるのではないか。

靖国問題についての疑問

日本の新聞やテレビで取り上げる靖国問題、小泉総理の非常に短いコメント、いずれも太平洋戦争の前後のことしか取り上げていない。ましてインターネットやブログでは感情論がそのまま出ているだけである。この問題で問われているのは、短い視点で見ても先の大戦の終結。中期的にみれば、日中、日米の国家関係、長い目で見れば、近代国家そのものの意義なのである。

一方、英国の保守党のマニフェスト叩き台の名を「Build to last」という。具体案がないとマスコミからは批判されているが、ブレア政権の中期的な戦略のひずみが、外交、内政で噴出している今、持続性を問題にする着眼点は鋭いと思うがどうか。

(2006年8月21日脱稿)

 
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