第7回 古新聞で家を建築したおじさん
スマー・エレック
Sumer Erek
アーティスト
1959年生まれ、50歳
キプロス島出身/ロンドン在住
読み終えた大量の新聞がただ廃棄の山と化していくだけの現状に物申すとばかりに、古新聞を材料として家を建ててしまったおじさんがいる。「ゴミとなったものをいかに芸術へと昇華させられるかが僕の腕の見せ所」と語る、「ザ・ニュースペーパー・ハウス」の制作者に話を伺った。
スマーさんが制作した、紙でできた家
「ザ・ニュースペーパー・ハウス」
この作品制作に至ったきっかけは何ですか。
たくさんの木が紙になりそして大量に廃棄されていく現状に警鐘を鳴らしたかった。現代の消費社会のあり方について考え直すきっかけになってくれればうれしい。
作品のコンセプトを教えてください。
大きく分けて「ニュース」「紙」「家」という、3つの異なる概念によってできている。「ニュース」は、情報発信のための技術とそれを取り巻く現代的な生活、「紙」は環境そのもの、そして「家」はそれらすべてを繋ぐものとして。「家」とは、自分自身を形成する特別な意味を成すもの。樹木が僕たちにとって意味を成す新聞に変貌するように、古新聞が僕たちにとって大切な意味をなす家として生まれ変わればと思ったんだ。
どうやってペーパー・ハウスを制作するのですか。
まずはベニヤ板を利用して、骨組みをこしらえる。その内側に、丸太に仕立てた丸めた新聞の筒と、その筒を束ねるためのプラスチック製の紐を使って本体となる新聞の家を作るんだ。全部で8万5000部もの新聞を使う大掛かりな仕事だから、1000人以上のボランティアの手を借りることになる。
一般の人々の参加を促すのはなぜですか。
外国人である僕が、ロンドンで現地の文化や生活に慣れていくまでにはそれなりの苦労があった。でもそうした時間を過ごす中で、英語を通して異なる国籍を持つ人々と繋がっていくことの大切さを痛感したんだ。同じように、「ザ・ニュースペーパー・ハウス」の制作を通して人と人とのつながりを広げたかった。外国暮らしで得た貴重な体験を自分の作品制作に生かそうと考えるのは、アーティストとして至極自然なことだったと思う。
スマーさんにとって、「家(ホーム)」とは何でしょう。
世界各国を見て回ったけれど、僕にとっての家(ホーム)とは、もうロンドンなのかもしれない。様々な国籍を持つ人々が互いを尊重し合いながら構成する文化は、本当に素晴らしい。街角で耳を澄ませば、色々な言語が飛び交っているんだから。ここまで文化的に豊かな経験ができる環境は、アーティストとしてやはり魅力を感じるね。
芸術活動以外では何に興味を持っていますか。
外国旅行かな。僕の生まれたキプロス島では、人々はもっとずっとのんびりした生活を送っている。そのためか、ロンドンでの生活のスピードの速さには、正直言うといまだに慣れていないんだ。だから束の間の休息を得るためには、外国へ旅行するのが一番だね。
(取材・執筆: 高橋百合子)
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