88歳になったエリザベス女王
エリザベス女王が4月21日に88歳の誕生日を迎えた。英国史上最高齢の君主である。在位期間もヴィクトリア女王の63年216日に次いで史上2番目の長さになり、 来年9月には記録を更新する見通しだ。
誕生日に合わせて英写真家デービッド・ベイリー氏が撮影したポートレートが公開されたが、実に生き生きしている。生命力にあふれている。76歳のベイリー氏は「私は女王の大ファンなんです。女王は、いたずらっぽく輝く、とても優しい目をされています。私は強い女性が好きです。女王はとても強い女性です」と印象を語っている。立憲君主国の君主は「国のかたち」を体現する象徴だ。エリザベス女王は、柔軟に変化し、自由闊達(かったつ)な気風を失うことがないモダンな英国そのものだ。チャールズ皇太子、ウィリアム王子、昨年7月に誕生したジョージ王子と、将来の君主が3世代も続く。国歌「神よ女王陛下を守り給え」にある「幸福」と「栄光」のオーラが、女王からほとばしる。
瑞々しさを保つ秘訣は、何と言っても、25歳で即位してから全身全霊を国家に捧げてきた献身と忠誠、責任感だろう。エリザベス女王は信仰心が強く、敬虔で、君主になったことを神様から与えられた使命と受け止めているそうだ。実際の夫はフィリップ殿下だが、「国家と結婚した」という表現の方がしっくりくる。
1976年に英軍基地から電子メールを発信し、フェイスブックの王室公式ページの「いいね!」数は110万。常に最先端のテクノロジーを取り入れる好奇心も衰えない。
今年1月、「デーリー・エクスプレス」紙が、6月に予定される女王のフランス訪問を伝える際、仏政府高官の話として、「これが恐らく最後の外遊になると聞かされた」と伝えた。チャールズ皇太子のメディア・チームがバッキンガム宮殿に引っ越し、女王のメディア・チームと合併。皇太子とカミラ夫人、ウィリアム王子とキャサリン妃、ヘンリー王子ら次世代への公務引き継ぎがいよいよ本格化するという観測が強まった。
女王は昨年11月、スリランカで開かれた英連邦首脳会議を欠席し、皇太子が代わりを務めている。王室ウォッチャーは「王位継承の布石」と分析。次の王位は王位継承順位2位のウィリアム王子ではなく、同1位の皇太子に継承されるというシグナルを王室が初めて送ったともいえる。王室が慎重なのは、英国民の8割が王室の存続を望んでいるとはいえ、ウィリアム王子の即位を望む声が少なからずあり、女王に比べ皇太子の海外人気は格段に低いからだ。
英王室の王位継承は少しずつ準備が進められる。バッキンガム宮殿でエリザベス女王が車まで歩く距離が短くなり、外遊も減っている。しかし、4月にバチカンでローマ法王フランシスコと初会談するなど、女王の千両役者ぶりは健在だ。フランス訪問を女王最後の外遊と断言するのは「時期尚早だ」と筆者には思える。
欧州の王室では昨年、オランダのベアトリクス女王(76歳)とベルギーのアルベール国王(79歳)が相次いで退位。ノルウェーのハラルド国王(77歳)、スペインのフアン・カルロス国王(76歳)、デンマークのマルグレーテ女王(74歳)と高齢化が進むが、エリザベス女王の88歳には及ばない。
エリザベス女王が退位することはあり得ない。オランダ王室の退位は珍しくないが、英王室で退位したのは、シンプソン夫人との「王冠を賭けた恋」で有名なエドワード8世(1894~1972年)だけ。ジョージ3世(1738~1820年)は晩年、正気を失ったとされ、ヴィクトリア女王(1819~1901年)も不眠症などに悩まされたが、亡くなるまで君主を続けた。
女王の母エリザベス王妃は101歳まで生きた。第二次大戦からの復興、ダイアナ元妃の事故死など数々の苦難を乗り越えてきた女王は、今も年数百もの公務をこなす。朝食を済ませると手紙や政府文書に目を通し、週に1度、首相と会見する。
最高齢で王位を継承した英国の君主はウィリアム4世(1830年即位)の64歳10カ月4日だが、チャールズ皇太子は11月の誕生日で66歳。王位継承を待ち続ける皇太子には本当に気の毒だが、女王は命が続く限り君主の使命を果たし続けるだろう。英国民も世界もそれを願っている。
Happy Birthday, Her Majesty!
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