EU残留・離脱の国民投票、あなたはどちらに賭ける
皆さん、新年あけましておめでとうございます。クリスマスとお正月は楽しく過ごされましたか。
クリスマス翌日の12月26日は「ボクシング・デー」と呼ばれているが、2200万人が街に繰り出し、37億4000万ポンド(約6670億円)の買い物を楽しんだとみられる。かくいう私も出張用のカメラ・バッグとGoProの装着用カメラを買い込み、妻から「また買ったの?」と叱られてしまった。
新聞社の支局長としてロンドンに赴任し、その後、独立して8年半が経つ。2008年のリーマン・ショックで英国の景気とポンドの通貨価値は大幅に下がったが、国内総生産(GDP)の年間成長率が2%を超えるなど英国経済は表面上、元気を取り戻したかに見える。しかし、英中央銀行・イングランド銀行は昨年中に利上げに踏み切らなかった。賃上げペースが弱く、原油価格の下落や財政再建の影響でインフレ率がゼロ%を少し上回る程度だからだ。「フィナンシャル・タイムズ」紙は新年もイングランド銀行は利上げを見送ると予想している。住宅ローンを抱える人には、とても気になるニュースだろう。しかし、上昇する不動産価格と雨後の筍のごとく増える不動産屋を見ていると、また、いつバブルが弾けるかと不安にならざるを得ない。
それより心配なのは、早ければ今年6月にも実施される、欧州連合(EU)残留・離脱を問う国民投票だ。日本人の目から見ると馬鹿げているとしか思えないのに、どうしてEUから離脱した方が良いと思う人が英国には多いのか。離脱を唱える人たちの動機は本当に様々だ。
まず、英国伝統の「議会主権」を損なうからだという、保守党内に根強い意見が挙げられる。
英国は「国民主権」というより、有権者に選ばれた議会に絶対的な権限を認めてきた。このシステムの下、2つの大戦と冷戦を勝ち抜いた英国は、EUの本部があるブリュッセルに意思決定の権限を奪われるのを本能的に嫌がっているのだ。
1991年から2014年にかけ、英国にやって来た移民は、差し引きで397万9000人(オックスフォード大学などの調査)。EU拡大によって移民が英国に流れ込み、自分の居場所や取り分が奪われたと感じる高齢者や単純労働者が増えた。外国資本、外国人選手、外国人監督を受け入れたことでリーグは活況を呈しているものの英国人の出番は明らかに少なくなっている、サッカーのイングランド・プレミア・リーグと同様だ。世界金融危機で財政が逼迫(ひっぱく)し、移民に対して社会保障や年金の恩恵を与える気持ちの余裕がなくなっている。
また、シリアやアフガニスタンの難民が大量に欧州に押し寄せ、130人が死亡したパリ同時多発テロで、イスラム系移民に対する潜在的な恐怖心が再び頭をもたげ始めている。
単一通貨ユーロ圏の年間成長率は1.6%で、英国を0.5ポイントも下回っている。先の大戦後、平和と繁栄をもたらしたEUというシステムは今や「低成長」という軛(くびき)に変わってしまった。融通の利かないEUの金融規制に縛られると国際金融街シティの競争力が落ち、HSBCのように本社をロンドンから別の場所に移すことを検討する金融機関が出てくるかもしれない。
こうした状況を背景に、キャメロン首相は国民投票というギャンブルに打って出た。英国がEUを飛び出せば、米国も日本も中国も相手にしない。そればかりか英国の地方の一つであるスコットランドにも見捨てられてしまうだろう。EUを離脱した場合、GDPは2030年時点で残留した場合より2.2%も小さくなる恐れがあるという。キャメロン首相もEUから出たいわけではない。保守党内の強硬派と、EU離脱と移民規制を唱えて支持率を上げた英国独立党(UKIP)を抑えるために、国民投票という大芝居を打った。ハイリスク・ノーリターンの博打というわけだ。
EU離脱に賭ける人はどうかしていると言わざるを得ない。しかし人間は時に理性ではなく感情で動く動物だ。欧州経済は回復基調に乗ってきてはいるが、投票日直前の大規模テロでパニックが起きたり、難民問題がさらに深刻化したりした場合、賽(さい)の目がどう出るかは誰にも予想できない。
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