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Tue, 08 October 2024

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第58回 モノ言う「王室外交」目指すチャールズ皇太子

モノ言う「王室外交」目指すチャールズ皇太子

チャールズ皇太子(66)がヨルダンやサウジアラビアなど中東訪問に合わせてBBCラジオ番組のインタビューに応じ、イスラム社会の若者が過激化していることについて「最も深刻な心配の一つ。その度合が警戒を要する部分だ」と重大な懸念を示した。「誰かほかの人との接触か、それともインターネットを通じてか、人々が過激化することに衝撃を覚える。インターネット上には常軌を逸したコンテンツが氾濫している」。

ヨルダンもサウジアラビアも米国が主導する有志連合に参加し、イスラム過激派組織「イスラム国」と戦っている。日本のフリージャーナリスト、後藤健二さんら2人がイスラム国に人質に取られ、殺害された事件では、ヨルダン軍パイロットと同国で拘置されている死刑囚の女性テロリストの解放も交渉の俎上(そじょう)に載せられた。

皇太子は「若者は一定の年齢に達すると冒険や興奮を追い求める。チャリティー活動を通じて思春期の若者のエネルギーを向ける代替物や建設的な道を探している」と強調した。英王室は中東諸国の王室とつながりが深い。とは言え、イスラム国への空爆が激しさを増す中、有志連合への参加国を訪問したのは、王室同士の友好と親善という意味以上に、キャメロン英政権の外交・安全保障政策を側面から支援する狙いも込められている。

サウジアラビア訪問ではサルマン新国王との初会談で、開設したサイトがイスラム教を侮辱しているとして、禁錮10年とムチ打ち1000回の刑を言い渡された人権派ブロガーを話題に取り上げた。もともと皇太子はチベットの良き理解者として知られるなど、人権問題に深い関心を寄せてきた。

 

香港返還の際は、自分の日記に中国指導者を「ゾッとさせる古いロウ人形」と記し、これまで何度もチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と会談しているとして、チベット騒乱に揺れた北京五輪の開会式に出席しない方針を誰よりも早く明らかにした。ダイアナ元皇太子妃との世紀の結婚、ダブル不倫、悲劇的な元妃の交通事故死、カミラ夫人との再婚など、英王室の中では、かなりイメージが悪い皇太子だが、幼いころから普通の子供に交じって学校に通い、ケンブリッジ大学を卒業し、ずっと「開かれた王室」の未来を見据えてきた。

「君臨すれども統治せず」の原則に基づき英王室は伝統的に政治的な発言を控えてきた。エリザベス女王も自分の考えを明かさないことで知られている。一方、チャリティーの運営で敏腕ぶりを発揮する皇太子は遺伝子組み換え食品から建築物まで幅広く発言し、物議を醸す。クリミア編入に端を発するウクライナ危機ではロシアのプーチン大統領をナチスの独裁者ヒトラーになぞらえて、厳しく非難された。しかし、国民目線でできるだけ正直に発言することが、王室の中で育った女王とは異なる皇太子のスタイルなのかもしれない。

2013~14年の英王室費は3570万ポンド(約65億3955万円)で、国民1人当たり56ペンスの負担、と王室の会計担当が昨年6月に発表した。国民1人当たりに焦点を当てることで「十分見合う出費」というイメージを強調してみせたのも皇太子の計らいと筆者は考える。最近、出版された米誌「タイム」のキャサリン・メイヤー記者による皇太子の伝記「国王の心」は「女王よりキャンペーンを展開する」「女王は、英国は皇太子の思い描く急進的な王室のスタイルを受け入れる用意ができていないかもしれないと心配している」と指摘し、大きな騒動になった。皇太子サイドはメイヤー記者に特別な取材の機会は与えていないと主張するが、メイヤー記者の発言は随分、皇太子を身びいきにしているように聞こえる。

 

オランダやベルギー、スペインでは君主の退位が相次いだが、欧州最年長君主のエリザベス女王にはその気配すらない。女王の在位期間は今年9月9日、ヴィクトリア女王の2万3226日16時間23分を上回り、英王室の最長記録を更新する。88歳と高齢の女王が英連邦首脳会議などの公務を大幅に皇太子に任せたことをきっかけに、皇太子担当スタッフの権限が一気に広がり、王室内部で縄張り争いが起きているとの観測もまことしやかに流れてくる。21世紀の英王室の姿や王室外交をめぐる静かな議論が進行しそうだ。

 

木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
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