第170回 英国パイントと米国パイント
聖ポール大聖堂の西口広場には18世紀初めに君臨したアン女王の石像があります。王権の象徴である宝玉と勺杖を持ち、女王の足元に英国、フランス、米国、アイルランドを表す4人の女神を従えます。アン女王時代の英国は、スペインやフランスとの戦争に勝ち続け、北米大陸の植民地化を進めて繁栄しました。ただし、アン女王の石像は教会に背を向け、顔も正面は向かず近くの酒屋に向いていると揶揄(やゆ)する人がいます。
アン女王は酒屋を見ている?
そう、女王は大のお酒好きでした。17回も妊娠しながら子宝に恵まれず大好きな紅茶とお酒に浸り、悶々とした日々を送っていたのかもしれません。晩年太り過ぎたために棺は正方形に近かったとも言われます。
晩年のアン女王は貫禄を増した
ところで、現代の米国で使われている体積を測る単位ガロンは、そんなアン女王の時代に英国で制定されましたが、米国に引き継がれ、アン女王ガロンやワイン・ガロンなどと呼ばれています。
英国の牛乳、 4パイントと2パイント
米国の1ガロンは約3.8リットルですが、その4分の1をクオーター(946ミリリットル)、8分の1をパイント(473ミリリットル)としています。英国在住の方はご存知でしょうが英国の牛乳やビールはパイント単位で販売されますが、米国のパイントと異なります。アン女王時代に決められた単位を米国が使い続け、英国は新しい単位に変えたのです。
パブのグラスにはパイント線がある
英国ではもともと1日の食事量に必要なパンは小麦7000粒に相当するとし、その体積を1ガロン、重さを1ポンドとしていました。でも中身が液体か小麦かで体積と重さが違いますので、中身によってエール・ガロン、ワイン・ガロンなどの液量単位がありました。アン女王は1706年にワイン・ガロンを231立法インチ(約3.8リットル)と定め、当時、英国の植民地だった米国は以来この単位を液量ガロンとして採用。一方、英国は1824年にエール・ガロンの近似値を帝国ガロン(約4.54リットル)として液量単位を統一しました。
欧州のワイン瓶は750mlが標準
英国パイントと米国パイントの違いがエールとワインの液量単位に由来するとは面白いですね。ちなみに日本ではお米1合が1日の必要量とされ、明治時代に1合を180ミリリットルと定めました。日本酒の瓶が720ミリリットル標準なのはお酒の液量単位だった1盃がお米4合に相当したからです。一方、欧州のワイン瓶が750ミリリットル標準に定められたのは英国の帝国ガロンがワイン瓶の半ダース分になるように決めたからです。