第183回 聖ニコラウスとサンタ・クロース
街を歩いていたら3個の黄金の玉の看板を見つけました。それは質屋のシンボルです。質屋の守護聖人は聖ニコラウスで、亡くなった12月6日が聖ニコラウスの日。質屋の日ともされています。聖ニコラウスはサンタ・クロースのモデルになった人物と言われています。
3個の黄金の玉は質屋の看板
聖ニコラウスは4世紀、トルコの古代都市ミュラにいたカトリックの司教で、貧者や弱者を救う慈悲深い人と知られていました。若いころ、貧しい3人の娘が身売りされることを知り、夜中にこっそり窓から3個の黄金の玉を投げ入れました。するとその玉は暖炉のそばに干してあった靴下の中に入り、おかげで3人の娘は身売りをせずに済んだと言います。この逸話から、聖ニコラウスの日には靴下の中に慈悲の贈り物がなされるという伝承が生まれました。
聖ニコラウスの肖像画
キリスト教が欧州全体に広まるにつれ、ローマ神話のサートゥルヌスや北欧神話のオーディン、東欧神話のクランプスといった土着の神々が悪者になっていきました。一方でキリスト教の聖ニコラウスは空を駆け巡り、魔法も使える正義のヒーローになります。毎年12月6日になると悪魔を引き連れて家庭を訪れ、善い子には贈り物を渡し、悪い子には悪魔がお仕置きをするという言い伝えに聖ニコラウスは変わりました。
「3人の娘が居る貧しい家に金を投げ入れるニコラウス」(ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ作)
かつて、中世キリスト教では人にお金を貸しても利息を取ることが禁じられていました。でも15世紀に入り貨幣経済が進むと庶民の借金も増え、そこから質屋の需要が高まります。そのため、托鉢修道会が中心になってモンテ・ディ・ピエタ(慈悲の山)という公的質屋を開きました。そこからお金を借りても利息の支払いは不要ですが、教会へのお布施が条件でした。この公的質屋が各地に普及し、慈悲あふれる聖ニコラウスがその守護聖人になります。
聖ニコラウスは悪魔を同行していた
やがて宗教改革後、欧州から多くの人々が北米大陸に移住しました。移住者たちは聖ニコラウスを信仰しないばかりか、イメージ・チェンジさせてサンタ・クロースを作り出します。サンタは悪魔を同行せず、どんな子どもにもクリスマス・イブに贈り物をします。やがてこれが英国に逆輸入されました。一方、英国以外の欧州では聖ニコラウスの日に贈り物をもらったり、クリスマス・イブにクリストキント(キリストの子)という天使から贈り物をもらったりと、国により千姿万態。各々の登場人物が各々のクリスマスに彩りを添えています。
ドイツのクリストキント
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